第43話 噴水と骸
「じゃあ行こうか」
サルバドールが食べ終わり、立ち上がりながら言う。
私たちは店を出て、彷徨い気味にあたりをうろつく。
「あの、式が始まるまでさっきの公園で休んでてもらってもいいですか...?」
私はその何気ない言葉を発するのに少々の勇気が必要だった。
「はい、わかりました。どこか行くんですか?」
「ちょっと昔を思い出したくて...。その辺をぐるぐると...」
私の曖昧な返事にサルバドールさんは特に疑う様子もなく、快諾した。
今、スタスタと公園に向かうサルバドールさんの姿が私の瞳に映し出されている。
およそ20メートルほど離れたであろうタイミングで私は噴水方面へ向かう。
そこにはまだ、お爺さんがいた。
いなきゃ困るのだが、あまりの居座り具合に、私は驚く。
力なく座ったその姿は弱々しく、骸がポトンと椅子に配置されている様だ。
目線は相変わらず噴水にあった。
「こんにちは、お爺さん!」
「おう、またお嬢さんかい。何用だ?」
ゆっくりと首を回しながら喋る姿は若干のホラー要素が垣間見えた。
しかし、向けられた顔を見ると目つきは鋭く、異様に綺麗な歯が目立った。
「あの、少し頼み事があるんですけど...」
「なんだ?この老いぼれにできることなら何でも言ってくれ。仕事は選ばんよ」
「本当ですか...?」
並大抵の仕事を頼むつもりなら、お爺さんの返事に心から安堵しただろう。
だが、今から言おうとしていることは、お爺さんも危険に巻き込んでしまうかもしれない。
私は慎重に話を進めた。
「まず、単刀直入に言います。マリアの本当の顔を結婚式で知らせてください!」
言い切った。その顔はとても必死だっただろう。
私はお爺さんと目を合わせられない。体を曲げてOKの返事を待つ。
「ちょっと待ってくれ。どう言うことなんだ。しっかり説明してくれ」
当然、お爺さんは困惑した。私の突然のお願いに。
そうなることは予想の範囲内だ。私は一から説明した。
「そうですね。じゃあ言います。私は、実はマリアに監禁されていたんです」
「ほう。なるほど」
言ってしまった。外部の人間にこのことを漏らしてしまった。
私は様子を伺いながらお爺さんを見る。返事は意外にも軽いものだった。
「信じてくれますか...?」
「ああ、信じてやろう。だが、だからなんだと言うんだ?」
「え?」
その返事はあまりにも予想外だった。
信じてもらえないか、頼み込んで何とか引き受けてくれるのかだと思っていた。
「お嬢さんがマリアちゃんに監禁された。それでなぜわしがお嬢さんの腹いせに協力しないといけないんだ?」
まずい。このままだと絶対に失敗する。
何かこの人が引き受けてくれるには...。
私はまたも、頭を必死に動かした。
「お爺さんのデザインじゃ式が盛り上がりませんよ?」
私は堂々と言い放った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます