第41話 理想の関係
サルバドールさんのいる元へ向かうと、あのお爺さんと同じように、水面をぼんやりと眺めていた。
水には人間を無気力にさせる魔力でもあるのだろうか。
そう感じるほどに、その目は焦点が合わずにまっすぐをみていた。
私は、話しかけるのも避けたいくらいだが、なんとか空気を戻そうと陽気に話しかけた。
「サルバドールさん!もっと案内しますよ!」
屈託のないように見える私の笑顔はどこか沈んでいた。
私の身振りも、オイルが足りなく、錆び切ったおもちゃが必死に動き出すような動きだ。
「アノンさん!分かりました、行きましょうか」
とても落ち着いた様子でサルバドールが言う。
私と付き合うことができない理由とはなんなのだろうか。
でも、いくら説得してもその正解は聞くことはできないのだろう。
私は静かに、また絶望した。
「では、行きましょう!」
私はサルバドールさんを引き連れて、この城下町を案内する。
「そろそろお腹すいてきませんか?」
気づけばもう朝ごはんの時間だった。
深夜からずっと歩いていたことを思い出すと、急に腹の虫が鳴り出す。
「そうですね。何か食べたいです」
そう言いながらサルバドールさんはお腹をさする。
「それ、お腹いっぱいの時のジェスチャーですよ」
「あははは、確かにそうだね」
サルバドールさんの笑った顔はどこにも闇を感じない、まさに屈託のない笑顔だった。
その顔を見ると、とても幸せな時間を過ごしていると感じた。
「こっちに美味しいサンドイッチのお店がありますよ」
私が指さした方向には、サンドイッチ専門店があった。
そこは、いつも行列ができるほどの人気店だ。
今は開店したばかりで、いつもよりは人が少なかった。
ふと、あたりを見渡すと、だんだんと外を歩く人が増え、時間の経過を強く感じた。
それと同時にマリアとマルクの結婚式が迫っていると言う事実に全身が震えた。
もうすぐだ。あと少しで、式が開かれる。まだ、全く心の準備はできていなかった。
「サルバドールさん、入りましょう」
「うん、ありがとう」
私が先頭を歩き、入店する。
流れるように席を案内され、私たちは対面で椅子に座った。
「たくさんメニューがありますね」
「はい!どれも美味しいですけど、私の1番のおすすめは、やっぱり卵サンドですかね」
「じゃあ、それ頼みます」
サルバドールさんと普通の会話をしている時間が1番楽しい。
無邪気にメニュー表を見るサルバドールさんを見ると、すごく癒される。
こう言う関係が1番いいな
私は何かに蓋をするように心の中で呟いた。
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