第10話 地獄再び

「そもそも5時間ならまだ警備として分からないこともないけど、1分2分なんて短い時間、何しに行ってるのかしら」


「確かにそんな短い時間、行く意味があるのでしょうかね。1分2分にできることといえば、トイレとか忘れ物を取りに行ったりとか、何かを確認しに行ったりとか...」


「確認か...。とりあえずサルバドールさん、庭になにがあるか、確認してきてもらってもいいですか?」


「はい、私も気になってるので」


「ありがとう。じゃあそれをするまではまだ動かないほうがいいわね」


「そうですね。警備隊長の動きが把握できたらまだ作戦を立てましょう」


「うん。そうね」





「あらごきげんよう。今日は私が直々に料理を持ってきたわ。お食べなさい」


皿の上を見るとゴキブリやセミ、などなど気持ち悪い虫がいっぱい並んでいた。


私は忘れかけていた。この地獄があることを。


脱出を考えてから、ずっとそっちに頭を使い、サルバドールさんも仲間になってくれて少し私の生活に光が見えてき始めていた。


ここを出れるかもという高揚感で隠れていた地獄が全力疾走で目の前にやってきた。


拒否ができない感覚を取り戻してしまった。


最近は少し地獄が弱まっていたのかも知れない。その分今はダメージがとんでもない。


「なにしてるの?早く食べなさい。ちゃんと見てあげるから」


「はい...」


次々と気持ち悪いムシを口に運ぶ。手が止まったらダメな気がして。


水が欲しい。ただそんな要求をするときっとこう返ってくる。


そこにトイレがあるじゃない。


なにも言えず食べるというより胃の中に無理やり入れて、なんとか食事を終えた。


「お、おいしかったです」


「そう、ありがと」


どんなに光が見えようと私はまだ暗くて汚い檻の中にいるのだということを改められた。

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