第9話 警備隊長の謎

「まず、お嬢様は朝、アノン様を起こされてから必ず何かしらの習い事に行かれます。今日で言うとピアノのお稽古です」


「なるほど。つまり朝食が配られてから、次にお嬢様が来るまで時間がかなりあると言うことですね?」


「そうです。だから脱出するための準備、はたまた脱出するときはその時間の方がいいと言えるでしょう」


「え、でも私がいつも寝てる時間はマリアは寝ているでしょう?その時間ではダメなのですか?」


「その時間は夜です。この館の警備は昼間よりも明らかに厳しくなっています。なので朝の、おそらく油断している時が1番と言えます」


「なるほど」


「そして脱出経路ですが、正面突破で脱出すると、警備が厳しいところが多いので危険が多く伴うでしょう。


なので何か抜け道的なのがいいと思います。そして何よりこの牢は地下にあるのです」


「え、ここ地下なんですか?」


「そうです。なので脱出はかなり難しくなってきます。そこでまずは一階に上がるためには、まず牢を出て廊下をまっすぐ行くと地下の警備隊長の部屋があります。そこを右に曲がれば階段がありますのでそこを行くしかないです」


「地下の警備隊長ってこの地下には私以外に何かあるんですか?」


「実は、この地下にはお嬢様が連れてきた人たちがたくさんいるんですよ」


「え、嘘でしょ。私と同じ目にあってる人がまだいるのですか?」


「そうなんです。前までは」


「前までは?」


「実は、もうその人たちはみんなお亡くなりになられているのです。だからせめてもの償いをと、アノン様を助けにまいりました」


私は驚いて声も出せなかった。そしてマリアへの憎しみが強くなった。私はどうすればいいのだろうか。何もしていないのに罪悪感が強くなっていった。


「そんなことって...」


「気をしっかりしてください。私も言いたくはなかったですが、人として隠すことができませんでした。私も聞いた時は絶句しました。昔、そんなことがあったなんて...」


「サルバドールさんはその人たちとは会っていないのですか?」


「はい。実はその亡くなられた人たちというのは5~6年ほど前の話らしくて、私がこの館の執事をする前のことらしいのです」


「5~6年前って!?あの子、そんな昔からこんなことを...」


「アノン様を連れてくるまではかなり落ち着いていたらしいのですが...。マリア様が考えることは分かりません」


「...これ以上悩んでられないわ。早く脱出の作戦を考えましょう」


「そうですね」


「警備隊長の部屋の前か...。ちなみに警備隊長はずっと地下にいるの?」


「警備隊長はいつも地下か館の庭を警備しています。私の見た感じ、昼頃に庭を警備しているようです」


「なるほど。じゃあその時間なら一階には行けそうね」


「ただ一つ問題があって...」


「問題?」


「ええ、その警備隊長、庭にいる時間にかなり差があって」


「そりゃ少しの差ぐらいはあるでしょ」


「いえ、それが少しじゃなくて短い時は1分2分、長い時は5時間ほどいるのです」


「5時間の時ならまだしも、1分2分の時に、出ようとしたら危ないわね」


「そうなんですよ」


「それにしても5時間は少し異常ね。庭ってそんなに警備しなきゃいけないところなのかしら?」


「そうなんですよ。実はこの館、庭が完全に密閉空間になっていて、庭というより、部屋なんですよ。だからいつも主人に、そこはそんなに見張らなくていいと怒られているんですよ」


「そう。だとしても時間に差があるってのが気になるわね。庭に何かあるんじゃないの?」


「探ってみる価値はあるかもしれないですね」

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