第46話 地鳴り

 ロード・シュタインを倒したことは伝えた。女性や子供から優先させて避難も進めている。


「それにしても現金な奴らよね」

『形成が不利になった途端にこっちに寝返るとはなァ』


 正直もう一波乱くらいあるのではと思っていたが、戦後処理はあっけないほどあっさりとした物だった。そもそも領主に対する忠誠心がほとんどなかったのと、傭兵らしいドライな考えが功を奏したという感じだ。


『さすがに、もう一戦と言われたらキツかったもんなァ』

「そうね。アンタも私も魔力すっからかんだったもんね」


 ロード・シュタイン捜索はこの街の人間に任せて私は一休み。


「考え方が傭兵って感じね」


 完全な無血開城とはいかなかったが、事情を説明したら、特に揉め事もなく基本的にすんなりと受け入れてくれた。


 今や、ロード・シュタインは賞金首。瀕死のロード・シュタインの首を持ち帰って、一山当てようとする傭兵達が残るのみ。


「まるでお祭り騒ぎね。隠れる側も大変ね」

『千五百人相手のかくれんぼ。見つかるのも時間の問題だろヨ』



   ◇



「……なんか、気のせいかな。揺れてない」


『言われてみれば……揺れてるようナ?』


 地面が、大気が……揺れている。


『って……ドンドン揺れが大きくなってんゾッ』


 ――――ズゴォンッ


 ロード・シュタインの城の城壁に亀裂。そして、そこから無数の目が生えた触手が……。


「……これって、あの……?」

『ああ、エルフの里のだ。間違いネェ』


 ついには城の塔を突き破り巨大な花が咲く。


『……あれは……。まさか、竜を取り込んだのか……』


 巨大な花の真ん中に……竜の顔。


『タニア、撤退だ!』


 城から伸びた触手が街の人間を捕らえ、捕食する。シュブ=ニグラスの花粉にやられた人間は錯乱状態、仲間同士での殺し合いが始まる。


『タニア、撤退だ。コイツは我たちが相手できる相手じゃネェ』


 もはや、木ではなく巨大なバケモノだ。足がすくむ……人間が太刀打ちできる存在ではない。言うなれば、神。


「たりゃぁああああああああ!!」


 今にも逃げ出したい気持ちを押し殺し、一歩前に踏み出し、幼い少女を掴んでいた枝を斬る。


「……あっ、おねえちゃん、ありがとう!」


 ……まだだ。私がここから逃げ出すのは、一般人が退避した後。ロード・シュタインの賞金を狙っていた男達は、標的をあのシュブ=ニグラスに移す。



「野郎ども、あのバケモンを仕留めるぞ。傭兵魂を見せろ!」

「傭兵魂、オレっちに、んなもんねぇけど。こうなりゃヤケクソだぁぁ」

「つかさぁ。オレっち傭兵じゃなくて街の【自警団】って設定になってませんでしたっけ?」

「いやいや今は、そんなしょーもねぇ言葉遊びのタテマエとかどーでもいいからッ」

「あはっ。どうせ死ぬんだ。ひひっ……殺して殺して殺しまくってさぁッハッピーに逝こうぜぇ」

「ギャハハハ。死ね死ね死ねッ――カハッ……おめぇら、アバヨ。先に地獄で待ってるぜぇッ!」



 八メートルを超える機兵、ミーレスの機銃が火を吹く。だが、シュブ=ニグラス相手には焼け石に水。相手は五十メートルを超える巨大なバケモノ。しかも常軌を逸した再生力を有する。


 ――だが、決して無意味ではない。本体にダメージを追わせることはできずとも、触手の成長を阻害することには成功している。


(触手の進行を食い止めれば、避難民の安全は確保できる)


「私も続くよ。傭兵だけに見せ場を上げないんだからっ! 超振動ヴィブラシオーネ!」


『ヒヒヒッ、しゃーねーなぁー。我も付き合ってやるヨッ!』


 刀身に冷気を這わせた超振動剣で触手に切り裂き、前へ進むのだった。

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