第47話 臨界点突破
「リュー。ごめん」
『アン、今更なんだ?』
「私達の旅はここが終着点。ごめん、私と一緒に死んで」
『ヒヒィッ! ここが死に場か、悪くネェ――って、この台詞何度目かネェ?』
「ふふ。死を覚悟するの、何度目かしらね。でも、今回は本当に――最後」
『ヒャッハァーッヒャッハァーッ!! イイジャンッ! 折角だ花火のように派手に死のうゼッ!!』
これから行うのは文字通りの最終奥義。唯一残された逆転の一手。
『「アルマトスフィア――完全臨界ッ!!」』
黒竜紋が光を放つ。漆黒の機体が徐々に白色に変じていく。
「……はぁ……はぁ……魔力充填率二百六十%……うぁ……」
『ガラァァァ……三六十%! 臨界点突破ァァァ!!!!!』
アルマトスフィアを自爆させれば古城一つ位は破壊できる。シュブ=ニグラスを倒しきれるかは分からない。だが、せめて進行を遅延させることはできるはずだ。
「今まで、ありがとう。いつも、迷惑かけてごめんね」
『謝る必要なんてネェ。タニア、おめぇとの旅たのしかったゼ』
「……竜を倒すって目的、果たせなかったね!」
『ハハッ! 問題ネェさ、人生ナンテソンなもんだろッッ!』
自分だけが特別じゃぁない。そう言ってもらって救われた。みんな目的を持って生きて、成せなくても、笑って死んでいく。重要なのは結果ではない、その過程、成そうとする想いこそが……。
『「――黒竜紋完全臨界!!」』
『ガ……、ガガ……――テメェ、アルマ!……この土壇場で……邪魔をッ!!……安全装置強制起動……アルマトスフィア自律回路起動……当機を緊急停止――冷却開始――全神経接続カッ……、させねぇッ!!……我は、我。リューだッ!! アルマ――おめぇだって一緒に戦ってきたんだぜ……!! タニアの生き様を見てきただロ! 仕様通りに動くだけのデク、本当にソレで良いのかよ!!――否、否――ガ、ガガガ……当機……ワタシは……安全装置停止……ワタシはワタシを破壊します。……ありがとうよ、アルマ。お互い命はないけど、死に様くらいはなッ!!――――リューの人格プログラムの完全停止を確認……』
黒い甲冑の騎士は白い騎士へ。 臨界点を突破したアルマトスフィアは巨大な爆弾と化す。不思議と後悔はない。 ここで、終わることに不満はない。
(それは、嘘だ。悔いはある……でも、悪くはない人生だった。そう思える)
――――ガイィィィンッ
「……あっ……、えっ……はっ……、がふっ……あっ……」
……何かに胸を貫かれた。一瞬のことで全く反応ができなかった。破れた肺からこひゅーこひゅーと乾いた音が。口からごぽりと血があふれる。
……槍、槍だ。槍は胸部装甲を貫き背面に達している。槍の柄を握るが、力が入らない……。これでは、この槍を抜くこともできない。
――自爆寸前で臨界点を突破したアルマは元の漆黒に。
これでは、完全に無駄死にだ。薄れゆく意識の中……私は空を見上げた。この槍を投げた存在を見るため。微かに見える人影。十二枚の透明な翼を広げた金色の髪の少女。
「……虫の知らせって馬鹿にできないわね」
そう呟くと、竜人はスッスッと右手をを掲げる。まるで巨大な花が咲くように魔法陣が。直径五十メートルを超える巨大な陣。……私の知らない魔法陣は……。
(いや、違う……この紋様はどこかで……思い出せない……)
記憶を辿ろうとすると頭の奥がチクチクと痛む。その陣は、禍々しいが、美しい。少女は謳うように詠唱を続ける。その神秘的な光景に全てを忘れ思わず魅入ってしまった。
「混沌よ 深淵よ 災禍の渦よ 狂い咲け 【メイルシュトローム】」
巨大な花のような陣から水……いや、津波が召喚される。両圧縮された螺旋を描く奔流が、城に向けて放たれる。
これはおそらくは水魔法ですらない。言うなれば、神罰。神の裁き、ノアの洪水の再現。……あの女が誰かは分からない。
だが……あの魔法ならば、確実にシュブ=ニグラスを殺しきれる。……それだけで十分だ。そこは感謝しよう。まあ、私を殺した相手に感謝をするなんて妙な気分だけど。……不思議と心は穏やかだ。
(……あぁ……でも……あの紋様……本当に……)
空に描かれた巨大な魔法陣。……思い出せない、だけど懐かしいような……。荒れ狂う渦。蛇のようにのたうち回る奔流に私は飲み込まれる。
酸素が足りないせいか徐々に考えるのが困難になっていく。私の旅は、なかばだけれど、悪い人生ではなかった。そこで、私の世界は漆黒に染まり、意識は途絶えた。
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