第18話 赤い教会
エルフの少女に案内されながら、森の奥深くへと進む。森の木や石に里の人間にしか分からないような記号が記されており、女の子はそれを頼りに教会へと進んでいるようだ。
(私だけで調べてたらとんでもない時間がかかったわね)
なにしろとんでもない広さの森林だ。これだけ広いと音が拡散するのでソナーも役に立たない。ガイド役を買って出てくれたこの少女に感謝だ。
「リュー、さすがにこの数の魔物おかしくない?」
『……おかしい。里の森の外周に楔石が置かれている。つまり、外から魔物が侵入している訳ではねぇ。となるとだ……』
考えたくないことだが、魔物の発生源は里の中ということだ。
『教会に近づくほど、うさん臭ぇにおいがドンドン強くなってやがるゼッ』
森の最奥にあるという教会に近づくほど、魔物が強くなり数も増えていく。視界に入ったゴブリンやオークをなで斬りにしていく。
「……それにしても凄い濃度の瘴気ねっ」
目視可能なほどの淀み。魔界ならいざしらず、この地域で自然発生的にこんなに強い瘴気が湧いてくるはずがない。
『もうちょいだ。うさん臭いニオイの元凶は、この先にいるぜ』
「これ以上は危険。君はここで待っていて」
エルフの少女はコクリと頷く。念のために強力な魔物よけの共鳴石を預け、身を潜めるようにと伝える。
「ここが……瘴気の発生源」
瘴気の発生源である森の中に建てられた、教会の扉へと手をかける。……そこは、いかにもといった感じの礼拝堂であった。祭壇にはシスターが一人。
「どちら様でしょうか。ここに辿り着ける人はいないはずはないのだけれど」
祭壇の前に立ち、祈りを捧げる碧眼のシスター。その髪は桃色で腰まで届くような長さであった。ピンと張った耳から彼女が、里で聞いていた突如この里に現れたハイエルフであることは語らずとも明らかだった。
森の最奥にハイエルフが居るということは事前に知っていた。だが、違和感があるのはそこではない。
「一体あんた、何を……」
瘴気の発生源であるその扉を開けてその光景に戦慄した。数々の修羅場を越え、死という物に対する理解があると思っていた。
だが、それは誤解であったことを理解する。この部屋は私が今までみてきた物すべての中で最も異様で異常な場所だった。
いや、厳密にはこの建物の構造自体は非常に一般的な礼拝堂で、簡素な作りではあるものの、どこの村にでもあるような、そんな小さな教会であった。
(……………………)
あえて違いがあるとすれば、壁だ。壁が赤く、赤く、……赤い。壁に飾られている、クリスマス飾りのような物は■だろうか……。頭の奥がチカチカと痛む。
この世界すべての悪意を体現したかのような凄惨な光景。……この部屋の■■には、尊厳を踏みにじられ、ただただ……虫のように……■■が壁に……。
『タニア、部屋を見るな。あの女の行動にだけ注視しろ』
あまりの光景に正気を失いかけたが、リューの声でなんとか持ち直す。……この部屋で行われていたことは人の尊厳を踏みにじる許しがたいことだ。
故人の無念を晴らすためには、まずはその加害者である眼の前の女を打倒すること。私は、この異常な光景に飲まれないよう、女の目を見据え睨み返す。
「あら、喋る剣とは、珍しいですね。確かインテリジェントアイテム、とか言うんでしたっけ。さて、質問の件なのですけど、見ての通りなのですが? アウローラ様を裏切った極悪人どもを生贄に捧げているところです。神樹シュブ=ニグラス様を受肉させるための」
この女は悪びれもせずそう語った。自分の行為の何が問題なのか、まったく理解していない。そんな風に淡々と事務的に告げる。
この女は一時の感情や狂気に酔っている訳ではない。ここで行われた冒涜的な行いはすべて彼女が正気のままで行ったということ。
その動機を知る必要などない。なぜなら、この女の考えていることを理解する必要などはないのだから。人であろうが竜であろうが関係ない。この女は明確な――敵。
私は、無言で竜殺し包丁の切っ先を向けるのであった。
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