第17話 温泉
ベッドで横になりながら案内役の言葉を頭の中で反芻する。
『小娘、アテが外れたナ』
「うーん。アテが外れてるだけなら良いんだけど……」
『ん? 何だ、妙に含みがある言い方だなッ』
現時点で何か確信がある訳ではない。だが、何となく引っかかる物をずっと感じているのだ。それを言語化できないのがもどかしい。私はリューに話を振る。
「そういえば、今更だけど女神アウローラって何者?」
『一言で説明するなら、エルフを創造した存在。三女神と呼ばれる者の一人』
「エルフを創造って……。神って何でもアリね」
『まあ、そんな条理を超えた奇跡を起こせるから神なんて言われてるんだろうけどナ。それにしても、ハイエルフがアルヴの森を抜けて、こんな辺鄙な里に来るってのも変な話だ』
「そんなに珍しいことなの? 同族が困ってたら手を貸す。不思議なことではないんじゃない?」
『まあ、そうなんだが。……ハイエルフの場合は別だ。あいつらは自分自身がアウローラに創られた特別な存在。逆に言えば、それ以外の存在は、虫けらのように土から湧いて出てきた取るに足らない不完全で下等な存在。そんな風に思ってやがる』
「ふーん。いやな奴らね。でも、それならなおさら同族には、特別な感情を抱いてもおかしくないんじゃないかしら?」
『逆だ。ハイエルフは徹底した純血主義で階級思考の持ち主だ。下等な種族である人間と交わったエルフは、人間より忌むべき対象。ましてや、ハーフエルフは穢れ。滅ぼすべき存在と考えている』
「酷い話ね。多くのエルフがアルヴの森から出ていったのも納得だわ」
『まったくだ。実際、穢れとしてハイエルフによって焼き討ちにされたエルフの里もあるって話を聞いたことがあるぜ。まったく、イカれてやがるぜ……』
「……うーん。ますます巫女の存在が怪しく感じてきたわ」
『まあ、ハイエルフの中にもまともな奴はいるかもしれねぇ。決めつけは良くねぇからな』
ベッドから起き上がり、外に出る準備を整える。
「あんたの言うことも一理あるはね。こういう時は足を使うに限るわ」
『小娘は、頭使うより足使った方が話はえーからな』
私は、エルフの里で起きている事態を正確に把握するため、宿の外へと出るのであった。
◇
調査目的で人の集まりそうな場所に向かい情報収集を行った。だが、巫女や、奇跡についての情報は何も得られなかった。空振り続きの私は気持ちを切り替えるため里の温泉に浸かっていた
「……ふにゃあああぁぁ……体が溶ける……癒されるぅ」
ほのかに香る柑橘系の匂い。風呂に浮かんでいる黄色い果実の匂いだろう。リラックスして力も抜けていくようだ……。極楽だ……。
身も心も洗われてる……これぞまさに魂の洗濯……。そんなことを考えていたら、同じ温泉に入っていたエルフの少女に声をかけられた。
「おねーちゃん、里の外の人だよね?」
だらしない素顔を見られてしまったことに思わず赤面してしまう。そんな私に気に留めず、少女は言葉を続ける。
「その、あまり長居しないほうが良いよ」
おそらく少女なりに勇気を出しての発言だったのだろう。私は、その理由を問う。女の子は口元に指をそえ小さな声で呟く。
「ここだけのナイショの話なんだけどね。ここ最近、妙な失踪が続いているの」
「……失踪?」
「うん。……変なのはね、失踪したのは三女神教から改宗したハーフエルフばかりなの……」
「……えっと、アウローラ様への信仰が篤い人たちが、森の奥の教会で祈りを捧げてるって聞いていたけど、もしかして失踪って言っているのはその人達のことかな?」
「うん。でも……おかしいの。森の奥に行った人たちはずっと帰ってこないし、心配して様子を見に行った人たちも居たんだけどね……帰ってこないの。……誰もっ!」
さすがに異常だ。騒ぎになっていないのがおかしいくらいに……。
「それでね。あたし、巫女様に会いに行こうと思ってるの。もしかしたら、私の思い過ごしかもしれないし。……うぅん、きっと私の思い過ごしに違いないわ」
今までの情報からこの少女を一人で向かわせるのは危険過ぎる。
「私もそこに連れてもらっても良いかしら?」
私は、エルフの少女にそう告げるのであった。
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