第16話 奇跡

「……この短期間に解決したんですか?」

「はい。全てはアウローラ様の御使いになられた巫女様のおかげです」

「巫女様?」


「はい。アルヴの森からはるばるいらっしゃったハイエルフの麗しき巫女様です。今は、里のなかでも特に信心深い者たちをお連れになり、森の最奥の教会で日々祈りを捧げていらっしゃいます。……あ、今の話はここだけの話にしておいて下さいね?」

「わかりました」


 それ以上踏み込んで欲しく無さそうな話題のようだったので、私は話を切り上げ、別の話題を振る。


「思っていたより人が多くてちょっと意外でした」

「基本的に来る者拒まずですから。里に移住しようと決意する理由は人それぞれですが」


 冒険者として生きることに疲れ静かな生活を求めエルフの里を訪れた者。エルフに恋をして、共に生きることを決意した者。


「今やこの村の住人の半分はハーフエルフです。かくいう私も」

「あっ、そうなんですね。もう少し閉じた里のイメージがあったので……」

「ははっ。ですよね。どうしても排他的なイメージありますよね?」


「はい。……その、すみません」

「謝らないでください。実はそこら変のイメージ戦略は悩ましいところでして。昔は外に開かれたエルフの里をアピールしようって話もあったんですよ……」


「……えーっと、何か問題があったんですか?」

「エルフの里の、排他的……言い換えれば、神秘的なイメージが観光的な意味では良い風に働いている面もありまして」


「と、言いますと?」

「乱暴な言葉で言うなら、怖いもの見たさ、度胸試しでいらっしゃる方も居ます。そういった方たちが少なくないお金を落としてくれている現実もありまして……。それに、そういった人たちも実際に里のエルフと交流することで、偏見を持たなくなったりもするんです」


「そうだったんですね」

「はい。いまやエルフの里は、魔物との戦闘に慣れたエルフやハーフエルフだけが暮らすだけの場所ではありません。戦う力のない人間も共存する里です」


 エルフの里の森を維持するのにもお金が掛かるのだそうだ。特にお金がかかるのが魔物除けの楔石の維持費だそうだ。


 楔石を森の外周に設置することで魔物の侵入を防ぐことができる。ただ、定期的な補修や魔石の交換などに掛かる費用もバカにならないとのことだった。そんな取り留めのない話をしていると宿の前に着いた。


「お疲れ様です。ここが、お客様の宿です」


 そういって部屋の鍵を渡し、男は去っていった。話の中にどこか魚の小骨のような違和感はあった。だが、これ以上は考えても仕方がないので一旦保留し、宿に入るのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る