第7話 休息
ここはダンジョンの最深部。スタンピードを退けた私は体力を癒やすため、共鳴石と呼ばれる、簡易的な魔物除けを起動させ、身体を休めることにした。
ダンジョンの最深部には強力な魔物が潜んでいる。どの程度の強さの相手か分からない以上、準備は万全にしておいた方が良いのは間違いないだろう。
「水よ 【クリエイトウオーター】」
自身の頭上に陣を展開し、ザバァッと頭から水を浴びる。衣服についた魔物の血と脂は、時間とともに凝固する。そうなると、動きも鈍くなる。
(あと、単純に気持ちの良い物じゃないからね……)
全身の汚れを落としたあと、、返り血で斬れ味の鈍った竜殺し包丁の汚れをパパッと拭う。
『おいおい。雑だなぁ。我を研いだりしネェのか?』
「あんたに砥石は不要でしょ」
どういう理屈かは完全に謎だが、竜殺し包丁は尋常じゃない強度を持っており、斬れ味が鈍るということがない。もちろん、物理的にこべりついた魔物の肉片くらいは洗い落とすが、必要なメンテナンスはその程度のもの。
食費として魔石がかかるのは難点だが、鍛冶屋で打ち直してもらったりしなくても良いので、結果的には非常にコストパフォーマンスの良い武器と言える。
『剣一本で魔物の大群に向かっていく姿は、ネコに挑む勇敢なネズミって感じだったゼッ』
「ネズミって。……もうちょっとこう、良い例えなかったの?」
リューは基本的には、書物から多くのことを学ぶ。さっきのリューの例え話は『窮鼠猫を噛む』ということわざが元ネタらしい。
私自身、本を読むことはない。だけど旅の道中でリューが読んだ本の内容を面白おかしく語ってくれるので、全く学のなかった私でもある程度の知識を得ることができているのも事実。学校に通うことができなかった私としては、ありがたい。そう感じることも……まあ、なくはない。
『窮鼠猫を噛むってコトワザはな。弱くて小さなネズミでも巨大なネコを倒すことができるって比喩でもあるんだぜ。ジャイアント・キリングとかロマンだろ?』
「えーっとね。あんた、私のこと褒めてるの、それともけなしてるの。どっち?」
『えーっと。ブッチャケ、半分半分?』
……自然災害として恐れられる突破的な魔物の群れ、スタンピード。その進行上に存在する村や集落は原型が残らないほど、あとかたもなく破壊し尽くされる。
(最悪それだけなら竜巻や地震なんかの被害と一緒で、復興の目処も立つのだけど……)
スタンピードが最悪なのは破壊するだけでなく、魔物の群れが村や集落を占拠し、そこを新たな巣とする事だ。スタンピードによって支配された村落を放置していれば、快適な環境で一気に繁殖し近隣の村にも大きな被害を出すこととなる。
(もちろん人間もスタンピードに無策という訳じゃないんだけどね)
ある程度の規模の街ともなると、スタンピード対策のために外堀を作り、街全体を石壁で覆って魔物の侵入に対する備えをしている所もある。
ある程度の規模の街。例えば私が現在滞在している交易都市エル・ファミルでは、魔物が近寄れないように巨大な、タリピシアと呼ばれる楔石を外周に設置することで、これを防いだりもする。
非常に強力な魔物除けの装置なのだが、維持費がバカにならないため、現状では全ての村落に配備するのは困難というのが現実なのであった。
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