第6話 冒険者
「今回うまくいったのは、あんたの前に進めって指示のおかげ。感謝するわ」
『おいおい、素直に褒めるなよ。調子狂う。つか、普段言われそうに無いようなことを言われっと死亡フラグみたいで縁起悪いからやめて?』
魔物の群れの最前線にあえて突っ込み、嵐のように薙ぐ……。もっと遠慮の無い表現をするなら、回転斬りでミキサーのように魔物をミンチにした。
『残りの体力量を無視したあの派手な回転斬り。あれは、恐慌と混乱狙いといったところか。博打だな』
「ご明察。そうよ、博打よ。悪いかしら?」
『開き直りやがったなッ!? 小娘のそういう無謀なとこ見ると、我と違っておめぇも、やっぱ根っからの冒険者なんだなぁって思い知らされるゼ。はぁ……』
確実に魔物を恐慌に陥れることに成功するかは分からなかったし、後続の魔物がどの程度居るかも分からなかった。そもそも私の体力が持つかも賭けだった。
「そうよ、博打。悪いかしら?」
『まっ、小娘が無理する理由も分からないではないが、さっきのスタンピードといい、これじゃ、遺品の一つだって持って帰れるか怪しいところだ』
私がダンジョンに潜ったのは、依頼内容は【ダンジョンから帰ってこない夫を探して欲しい】というものだ。可能な限りの努力はするが、それにも限度は有る。
(……行方不明者を探しに行った私が行方不明になったら笑えないもんね)
ミイラ取りがミイラになる、という言葉が頭をよぎったが、頬をピシャンと叩いて気持ちを切り替える。諦めるのは、まだ早い。
『わーってるよ。依頼があるからだろ?』
「まだ死んだと決まったわけじゃ、ないっ」
『止めはしねぇが、期待はすんなヨ?』
リューも悪意があって言っている訳ではない。過去に私が受注した、救難クエストで助けられた事はなかったし、そのたびに打ちひしがれる私の姿を見ていたからの言葉。
もちろん、私もプロの冒険者。厳しい現実を何度も目にしてある程度の覚悟は出来ている。だから、ここでリューに言うべきなのは感謝の言葉なのだろう。
「ありがと。そうね、ちょっと頭を冷やすわ」
『おめぇが無茶する時は、理由があってのことだってのは分かってる。さっき、逃げなかったのも、仮にあそこで避難してれば、救出確率がゼロになるからってところだろ?』
まったくコイツは。見透かしたような事を言う。まあ、事実なので反論はできないが。私は、曖昧に手を振ってそれを応えとする。
(救出対象の男性がダンジョンに潜って三日。魔物に襲われていないのならば、生存の可能性はゼロではない)
魔物に見つからないような場所に隠れているなら助けられる可能性はある。それに、依頼主から聞いていた特徴と合致する死体はまだ見ていない。まだ、助けられる希望は無くなったわけじゃない。
(可能性がゼロじゃないなら。……私はそれに賭ける!)
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