第3話 ダンジョン
「炎を灯し 行先を照らせ 【トーチ】」
詠唱すると空中に小さな火球が浮かびダンジョンにほのかな明かりが灯る。下位炎魔法、トーチ。視界の悪いダンジョンをメインに活動する冒険者にとっては必須級の魔法と言っても良い。
明かりを灯すといっても、その効果は限定された範囲。具体的な効果範囲は私を中心に五メートルといったところか。
(まあ、魔力を込めればいくらでも明るくすることはできるけど、それじゃ魔力が持たないし、それに魔物を誘き寄せちゃうもんね)
トーチは下位魔法のなかでは最も使用頻度が高い魔法と言っても過言ではない。
(ダンジョンに潜るたびにタイマツなんて買ってたら、いくらお金があっても足りないからね。経費削減も、冒険者の必須スキル)
基本的に冒険者の役割は人々の困りごとを解決すること。……そうは言っても、もちろん慈善団体ではない。
魔物討伐、薬草採取、ダンジョン攻略、依頼をこなすにも費用が掛かる。受け取れる報酬が経費よりかかれば、当然赤字。職業として成り立たない。
「無駄な出費を抑えて、報酬ガッポリ。それが基本よね」
『ヒヒッ。まっ、我の知る限りそーんなまっとうな冒険者は、ほとんど見たことネェけどなー』
悲しいかな、これも事実である。そもそも損得計算ができるような、賢い人間はまず冒険者にはならない。
(そもそも損得を言うなら自分の命を天秤に乗せたりなんてしないもんね……)
冒険者は割にあわない。だが、それにも関わらず進んで冒険者に成ろうとする者は後を立たない。冒険者に好きこのんでなる者は、基本的には大雑把。良く言えば勇敢だし、悪く言えば無謀。
『稼いだ金を一晩のうちに酒場でパッと使い果たしてしまう奴もザラにいるモンなぁッ』
「どこの街でも見る光景ね」
命を張ってまで倒した強大な魔物の報酬を一晩で使ってしまうような者もいる。だが、そんな冒険者の姿を見て、思うのだ……。自分もそう、成りたいと。
『まっ、損得の話だけで言うなら、ぶっちゃけ儲かってんのなんて、武器商人くらいなもんだからナァ』
「……えっ、そうなの? マジ?」
『マジマジマジ。大マジだ。ちょっと昔話になるけどな、遥か昔、ゴールドラッシュってのがあったんだ。、そん時儲けてたのが誰か分かる?』
ヒントは既に出ている。ゴールドラッシュの時の武器商人にあたる職業は……。
「えっと、ピッケルとか売ってた人たち?」
『ご名答。まあ、金を掘り当てられるかって、ぶっちゃけ運なんだよ。いろいろ後付で理屈こねる奴がいるが、ぶっちゃけ運以外の要素は絡まネェ。宝くじと同じだナ』
「ふーん。そうなんだ」
『でもよ、一方でピッケル売りは確実に儲けられる。だって宣伝なんてしなくても一攫千金を夢見る奴らがアホほどやってくるからナァ。しかも、言い値で買ってくれるんだぜ。こんなおいしい仕事はネェ』
「でも金を掘り当てて大儲けした人もいるんでしょ?」
『居るには居る。だけど、ごく一部だ。九九%の夢見るバカは落盤や、鉱毒なんかで……ま、おっ死んじまったわナァ』
「……厳しいね。……現実」
『まあでも我は、そういう奴らは嫌いじゃないぜ? それに、当時の記録を読む限り、そんなバカどもは自分を不幸せだとも思ってなかったらしい』
「ふふっ。なんかその話聞く限り、冒険者とちょっと似ているわね」
『まあ、似たようなところはあるかもしれねぇナ』
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