第16話 子を諭すのが親ってモンだろ!
謁見の間にて音を超える破裂音が連続。
同時に響くのは金属の擦過音だ。
短い鞘走りに似たそれは二振の短剣から。
「綺麗な太刀筋だ」
「恐縮です」
皇帝・
その息子の
そこから相手の速度に合わせつつ、払う。
凛。
弾く、というより流れたと言うべき剣の軌道変更。
引いた分を弾く動作で突きに転換。
息子はそれを得物で下から突き刺す。
軽く、しかし最低限の圧力をもって右に流して、全身を前へ。
皇帝も流れに逆らわず、一歩。
刃を起点にした位置交換にて、左右の肩から対角となる。
「そういえば、ここ最近国内で変死者が多発しているのは知ってるかな?」
そう言う皇帝は合わさった右肩で
震脚を発生源とするそのゼロ距離体当たりは、床に最低限の軋みを与えて、最大限の威力にて皇太子を弾き飛ばす。
「本人の生体エネルギーのみ無くなってるから、死体が酷いことになってる、とか」
壁までフッ飛ばされた
各関節を折り曲げ、クッションにした消力だ。
「そ。それでその数がこの前の襲撃を境に数十万人」
「諸外国含みだと更にドンですね」
皇帝は身を弾いて間合いの詰め。
音が幾枚も割れる突きを繰り出す。
対する息子も短剣を眼前に持っていき受け太刀。
「驚かないのかい?」
「ビサニティが仕掛けたかは確定してませんが、何かしら起こるのは必定では?」
父親は更に密着して、隙の出来た息子の腹に膝を叩き込む。
「そういうのは良くないなあ」
「……別段、百億超の人口で焦る割合ではないでしょう?」
腹の鈍い痛みに耐えながら、黒狼は受け太刀の腕で押し返して、無理矢理剥がす。
蒼吼はそれに逆らわずバックステップ。
「……チッ」
近づこうとする息子であったが、一瞬では力が入らなかった。
「体幹へのダメージは残りやすいからね」
膝を入れた側は距離を調節しつつの、細かい腕のスナップを活かした乱撃を放つ。
「私達は目の前だけじゃ、やっていけない」
でもね、と皇帝は短剣を息子の鼻先に突きつけた。
「その目の前を
再びの受け太刀。
息子は金属が焼けるのと、いつかの赤髪に問うたことの正反対であるのを見た。
「……俺には無いな」
「ほう」
ようやく崩れた息子に親は相槌。
更に押し込み、壁に
背にした壁が拘束具となり、黒狼は満足に動くことは難しい。
けれど、
「無いが」
震脚!
床にヒビが入り、壁にも大きく亀裂が走った。
踏み込みの威力は二足から発せられ、眼前の刃を弾き飛ばす。
「無いからこそ、他の奴に任す」
「そんな都合のいいのはいないんじゃないかな?」
皇帝は衝撃を殺す為に後方に飛び、そこから更に四、五歩刻んだ。
しかし、衝撃の余波が残っているのか、右に収まっていた短剣を左に投げる。
再度の接近。
力は乗らないが、速度のある左逆袈裟が放たれた。
「都合は良くないが、面白い奴はいる」
すると、右に持ち替えた黒狼が軌道に差し込み、外に払う。
払い、体の空いた蒼吼に蹴りを入れて距離を取らせた。
「存外に手の速い奴らみたいだな」
一時の笑み。
継承権一位の男は投影端末を開くと、
「
「……なんで分かった?」
ダンスのように回転と足捌きが重なっていく。
「そりゃ勿論、
「あのバカ、怖いもの知らずか……」
痺れている右がデッドウェイトになってる皇帝は剥がす一撃を放てない。
けれども、対峙している少年が放つ牽制打はどうにか防ぎ切っていた。
「エンルマ殿も連座で首を出したんだ。建国の武力担当まで出るとなると、流石に飲まざるおえなかったよ」
「それだけ
皇帝はローキックを放つ。
その隙にバックステップ。
ようやく抜け出せた彼は左で短剣を回して具合を確かめる。
「そ。実際、
「想念や龍脈由来のバケモノならではの干渉力で整備や効率化をしていたな」
黒狼は『東方不敗』を成形した時の
「公私秘書とはいうが、並行して龍脈管理もやっているとは。権限が大き過ぎないか?」
「まあ、そう言わない。あれでも色々大変だったんだから」
両者同時に踏み込み。
二人の突きがカチ合い、弾き合い、そこから袈裟と逆袈裟、逆袈裟と袈裟の交差が三、四と続く。
「何度か脈の流れが不安定になったと聞いているが?」
「じゃ、なんで不安定になって、今は安定してるのだろうね?」
金属が細かく擦れる音を境に、片方は眉をひそめ、もう片方は一つをつむる。
「知っているのか?」
「残念。これ以上は本人達に聞くといい」
そのままの姿勢で運動力が放たれる、いわゆる
だが、
「ッ!」
衝撃を殺し切れなかった息子がフッ飛ばされて転がった。
「……そこまでします?」
「逆さ。ここまでが限界だよ」
決着として、息子は口調を正した。
皇帝は放った右を振っている。
手はロクに握れなかった故に赤くなっており、腫れこそないが、痛々しさが目立っていた。
「ダメージが蓄積してるのに、右で殴るのが限界ですか」
「こうでもしないと、現役には勝てないからね」
「よく言いますよ。コッチは勁力操作使ってまで
息子は砕いた壁と床に視線を送って、亀裂に残っている黒い勁の粒子を吹いて飛ばした。
いてて、とその親は右腕に勁力を流し、回復行動。
手を開閉して具合を確かめる。
「砕いた所はどうします?」
「私が殴ったことにしておくよ。息子に良いところ見せようとして調子乗ったってね」
倒れている息子に手を伸ばすが、彼はそれを無視して立ち上がった。
埃を払っている顔は『なんともない』ような素振りである。
「強がりかい?」
「別に。皇帝陛下の手を煩わせるまでのことではないでしょう」
「可愛くないね。誰に似たんだか」
「意外と皇帝陛下かもしれませんね」
着崩れた着物を直して、向き合う二人はその冗談に笑っていた。
「いや、笑わないでください。皮肉なんですから」
「いやあ、だって直接育ててないのは事実だろう?」
「立場や事情があるんですから、仕方ないでしょう」
別段波立ってる訳でない息子は、所在なさげに口を尖らす父の背景を
それでも親は何か言いたげで、
「じゃあ、初めて私と会ってどうだった?」
「存外気楽でした。もう少しお叱りを受けるかと」
「頑張ってここまで来た息子にそんなことしないさ」
「では何故あんな手合わせを?」
そりゃ、勿論、と
「君にいいトコ見せたかったからさ」
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