辺境伯の次男バトルマスター、世界平和の為に世界征服に乗り出す〜バトルシティとピーポーのピースを目指してワールドに覇をキャストします〜
ギュンター
第1話 かくして、彼は踏み出した
「なあ、
遥か彼方に吹き飛ばされたその醜い鉄塊は、彼等に向かって猛烈な勢いで迫る。
「いきなり何を……⁉︎」
「いや、な。お前に叱られて思ったんだわ。俺と嫁が最高に幸せに生きれる世界ってなんだろうってな」
「俺は
迫る鉄塊を速度重視の左拳三発で足止め。
止まった隙に右脚を軸にしたターンで巨槌の柄が直撃。再び吹き飛ばされる。
「この状況で言ってる場合、んがっ!」
「安心しな。ソッコで終わる。そのついででテメエに言い返しにな」
「何を……?」
背後にした鉄塊に
不敵と困惑。
砂煙る戦場において一瞬の間。
それを、
震脚!
不敵の剛脚がその空気と大地を打ち破った。
下にいた鉄塊がたまらず押し潰され、大地の岩盤、更にその下まで打ち込まれる。
その内部に澱み溜まった
大都市複数を一瞬で更地にする暴威はこうして、より大きな力に消されたのだ。
短剣一閃。
すると、
「御天道様よお! 俺らは充分幸せだ!」
太陽はキッカリ通り道のど真ん中にいた。
それを指す
「けど、テメエがコレ以上を魅せろって言いやがる!」
目の前の男が放つその精神性に知覚を焼かれているのだろうか。
根拠なく放たれるその言葉に知らない確信を覚えてしまう。
「だったら世界平和がいいつったら、どっかの誰かにバカにされちまった!」
彼の後ろの遥か彼方には国の皇都とそこに住まう皇帝がいた。
頂点たる陽を指で降ろすようにも見えるその仕草は、男がどこまで挑戦的なのかを明確に示していた。
「なら、世界征服して世界平和にしたら最高にバカげててイカしてるよな!」
『鎧』の上からでも分かる
***
皇国暦一〇九〇年。
隣国群からの侵略をその何十万kmにも及ぶ
「今日はどういった御要件で?」
そんな人盛りの中でも一際目を引く金髪美少女と赤髪美丈夫が一組。
「ん? 俺の女を見せびらかしたくて」
そんな気の抜けた言い分を、これまた気の抜けた顔で言い放つは赤を下地に黒の帯で縫いとめた着流しを纏う美丈夫だ。
「全く、相変わらず良い御身分ですね」
そう呆れて言い返す美少女はスラリした長身に、男ならば一目見て情欲を激しくかき立てられる起伏に富んだ体のライン。
そして一番に目を引くのは頭部の兎耳・狐耳・龍角だ。
「まあな、実際良い身分だし……、と」
美丈夫が前から目を外すと、
「
「応! あんがとな!」
出店の店主が鴉坊と呼ばれた美丈夫──
「本当に
「んな固えこと言うなって。
と、彼は連れ歩く美少女の
「ま、ヘタクソなゴキゲン取りとして受け取ってあげましょう」
「ほいよ、羊肉挟まってんぜ。好物だろ」
二人が練り歩く大通りは様々な人種が行き交う。黒髪や碧眼、3m程の巨人、羽で飛んでいる親指程の妖精、全身に毛が生えた者、膝から下が無く歩く者エトセトラ。
その様々な人種種族で活気作られていた。
「どうなさいました?」
「ん、ソレ」
すると、彼が彼女の頬を指でなぞって、それを舐めた。
「腹減ってたみたいだし、丁度良かったな」
「……んもう!」
しかし、
そうして暫く歩いていると、
「道を開けい! 皇位継承第一位、
誘導役らしき従者の声が大通りに鳴り響く。
それに応じて、次々と人々が割れるように端に寄っていく。
後続に物々しい軍団を率いて、先頭に羽を畳んだ
「そこの貴様等、何用だ?」
開いた道において、その鋭い視線の先には
「何用って、なあ?」
「ええ、それは勿論」
と、二人が顔を見合わせると
「なっ⁉︎」
「
「その
「かの皇太子様が来訪下さるのは聞き及んでおりましたが、今日この場をお通りなさるとは露知らず。このような無礼な装束にて御前に出てしまった事、誠申し訳なく存じ上げる次第であります」
高位の皇族の先を遮るように立っていた男女がその実、皇族というのに軍団はどよめき立つ。
すると、
「双方出迎え、大義である。急ぎの来訪ゆえ、伝令に混乱が出たようだ。多少の崩れは許容しよう。今後はこのようなことが無いよう厳命しておく」
「はっ!
「黒狼でよい。『
自身の通り名を呼ばれ、彼は片方だけ一瞬目を送る。
降ろす両目と上げる片目の線が交わる。
その場で散った火花に気付いたのは一人だけだった。
そして、その女は何も言わず、ただ礼を保ったままである。
それに勘付いるのか、
「それと」
と、彼は片手を出すと、
「食物は大事に扱うように」
そこに
「戒めておきます」
「ならば罰としてコレを貰うぞ」
そこに、
「
従者の一人が流石にと
「よい。もし、毒が入っていたとしても、ここの
「しかし、もし御命になにかあれば……」
「くどい。貴様等もそろそろ道を開けるがいい。
「「御意に」」
彼は従者を一蹴し、二人が退いた道に
誰もが家に帰ると、家族に今日の二人の皇族の話をして、明日には忘れる程度の話題であった。
***
「ではごゆるりと」
「うむ、そうさせてもらう」
大通りでの少しの騒動の後。
彼は諸々の手続きを終えて、この
「防音術式を」
「はっ」
護衛として連れてきた従者が部屋から音が漏れないよう、術式(世界に満ちる『マテリアル』に特定の情報を流して目的の事象を発生させる技術。場所によっては魔術とも)を展開した。
「完了しました」
「よし」
と、
「お疲れ様です」
「全くだ。まさかいきなり『
彼は目元を押してほぐす。天井を見上げて行うそれは、如何に疲労が溜まっていたかを明らかにしていた。
「お前はアイツ等をどう思う?」
「……アイツ等とは?」
「『
「……噂からしたら、少々大人しい印象でした」
従者は歯切れ悪く答える。
昼に出会ったあの二人の行動は非常にチグハグなモノだった。
不敵に接触してきたと思ったら、その次の瞬間には揃って礼を尽くした態度を取った。
衣服や状況こそ体裁が悪いと言えば悪いが、それ以外はほぼ彼等の言葉通りであった。
「幼くして
通常は一体でも国を滅ぼしかねない通常の獣憑きという妖や魔物の中でも、例外中の例外、かつ、人類側が観測している中でも唯一の三種の大妖魔が憑いた『それ』のことを指す。その名は三種になぞられついたのが『
「百年ほど前に姿を突如消したと聞いていましたが、いざ表舞台に現れたと思ったら、まさか幼子に
「だが実物を見ただろう?」
「あれこそ
「見抜けなかった」
「は?」
「一瞬だけのあの二人に
「そ、それは……」
黒狼自身も『
その目をもってしても、
そのことに従者はただ言葉を失うだけであった。
「まあ、気にするな。予想以上の不確定要素はあるが、状況的には望んだアウェーだ」
「良かったのですか?
「それも俺が望んだことだ。気にするな」
すると、
「それはっ……!」
「気にするなと言ったぞ。それに仕込むなら、もっとマシな状況が幾らでも作れるはずだ」
と、一つ取り出してかじる。
ソースの甘塩っぱさと羊肉のクセがありながも独特な旨味が絡み、小麦粉の香ばしさがアクセントになった風味が口の中で広がる。
「やれやれ、飾りっ気はないが、味は確かに実が詰まっているな」
彼は呆れるような、羨ましがるようななんとも複雑そうな笑みを浮かべて、
***
街の外れにて。
「良かったんですか?」
「ん? 何が?」
「継承一位にあの対応で、ってことです」
「まあな、実際アイツが来るの知らされる場にいなかったんだし」
「その知らせを誰に盗み聞きさせたんでしょうね?」
「えっー、だって術式に関してはオメエの方が得意じゃんか」
「そういう話ではないのですけどー」
彼女は口を尖らせて、諸々に抗議する。
どうやら
彼女が話だけを進めようとする彼に対して、不満を持ってしまうのも無理はなかった。
「へいへい、わーったよ。目的に関しちゃ、『威力偵察』だ。結果としちゃ成功だな」
彼も彼で観念して情報整理も兼ねて話す。
そして、低位の皇族が高位相手に聞く者が聞いたら卒倒しそうな事をサラッと言い出した。
しかし、内容からして彼等としては予定通りのようだ。
「で、私を見せびらかしたいという嘘は置いておいて、どうでした?」
「普通に厄介だし多いし強いな」
「数は一、二万ほどでしたね」
「でもって質も統率も高い。あの数でアレは流石は中央直属ってトコだ」
ちなみに中央とは皇都の事を指す。
その直属軍がこの
「マジで武功挙げに来やがったな」
「視察だけでしたら遥かにマシだったのですけれど」
この
その数だけ思惑があるということだ。この
二人が歩いたあの大通りにいた人々も、それぞれが大なり小なりの目的を持っている。
貿易、
商人として、帰属を求めて、隣国がどうであるのか、攻め入るタイミングはいつかを計りに。
逆に
「今回の
「どちらにせよ、功績作りに付き合わされるコチラにとっては面倒ですね」
「東と南はもう色々済んじまってるしな。北は何もねえし、西に目が向くのはしょうがねえよ。それに丁度いい奴等がいる」
彼が言った
要は全面戦争とはいかずとも、敵対している勢力・国家に対して(示威行為等含め口実はどうであれ)武力行使を行うのだ。
あれこれ言っている彼等も様々な理由で従軍経験が複数ある。
「あの調子でしたら、よっぽどの乱暴なことは言いそうにはありませんが」
「どーだろうな。所詮、小手先調べだし。ま、そん時はそん時だ」
二人は
その上で行き当たりばったりと自覚しながらも、自身達の権限を踏まえての結論を出す。
その事に
「あら、珍しく弱気なんですね」
「俺は平和主義者なんだぜ。オメエもよく知ってんだろ」
「通り名が泣いてしまいますよ?」
「いーんだよ。重たくて大事なモンはオメエだけにしてえんだ」
「まあ、お上手なこと」
「あんがとさん。そら、愛しの巣だぜ」
と、彼は見えて来た自分達の
「そろそろ
「んにゃ、門番の練度測りてえからこのまま」
「本音は?」
「驚かしてからかいてえ」
「はいはい、仰せのままに」
ちなみに余談ではあるが、門直前でようやく術式を解いて慌てた門番達が練度不足と注意を受けたとか。
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