第42話「妹が告白されていた」

「好きです! 付き合ってください!」


 そう言っているのはリア充グループの……誰だっけ? バスケ部員、いやサッカー部員だっただろうか? とにかくその男の所属しているところなどまったくもってどうでもいい話だ。問題はその相手が俺の妹だと言うことだ。


「無理です、お兄ちゃんがいるので物理的に百パーセントあり得ません。どうしてもというなら私のお兄ちゃんに転生でもしてください」


 辛らつな言葉で振る茜。俺は多少ホッとしたことを無かったと言い張る自信は無かった。そしてコレが起きたときの問題はその後にある。


 茜が俺に始終見ておくようにと、告白の現場である中庭で、俺は待機させられていた。ただでさえ野次馬がいるというのに一直線に俺の方へ向かってくる。


「私、お兄ちゃんに就職内定をもらってるので有象無象の告白はあり得ないです」


 それを聞いて告白したやつは去って行き、また今日も俺にヘイトがたまるのだった。


 そして茜は俺の方によってきて抱きついてくる。目立つ……公開処刑かな?


「お兄ちゃん! 私、ちゃんと断りましたよ! 妹の愛情ってやつですね!」


「そうか、それは自由だが俺に抱きつく必要があるのか?」


「私にはお兄ちゃんがいるというアピールのために重要なことです!」


 茜はそう言って俺の腕に自分の腕を絡めてくる。柔らかな感触が伝わってくるのだが、学校でこんな事をしていていいのだろうか? みんないつものことだと慣れ始めているがどう考えてもおかしい気がする。


「ささ、授業が始まりますよ! 教室に行きましょう!」


 俺は引かれるがまま教室に向かった。途中で振り返ったが、告白した人たちの集まりから『やっぱりかー……』、『しゃーない』などと言う言葉が聞こえてきた。慣れって怖いものだな。


 そして退屈な午後の授業が終わるとやはり茜が俺の所に来て一緒に帰ろうと言ってきた。いちいち言わなくても同じ家に帰るんだから宣言しなくてもいいと思うのだが、一度聞いてみたら『周囲への匂わせは毎日やることが大事ですから』と断言していた。


 帰り道に茜に聞いてみた。


「お前って告白されて心が揺らいだことはないの?」


 茜は少し考えて答えた。


「無いですね! もちろんお兄ちゃんが告白してくれればぐらぐら揺れるどころか倒壊するくらいうれしいですよ? だから私はいつでもお兄ちゃんに告白される準備はできてます」


 そんなことを言っていたが、この調子では当分兄妹以外の人間関係を築くことは無さそうだな。


「お兄ちゃん……好きですよ……」


 そう言ってもたれかかってくる茜を引き剥がそうとは思わなかった。温い温度が柔らかい感触と共に伝わってくる。それがなんだか心地よく思えてしまう。きっといつかは独り立ちするというのに、それに対する覚悟が出来ていないなと思った。


「お兄ちゃん、私がこうして抱きついても引き剥がさないところとか好きですよ」


「そうか、暑いし手を繋ぐくらいにしてくれないかな?」


「しょうがないですね……」


 茜が俺から体を離し手をギュッと握る。柔らかくて小さい手が俺の手におさまる。多少歪だとしても俺は兄妹だからいいのだろうと思う。家族愛を否定される覚えはないからな。


 そうして俺たちは一緒に家まで帰った。茜が独り立ちできる日も、俺がそれを受け入れる準備ができる日も、きっとまだまだ遠いのだろう。しかしまあ……それでいい。

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