第41話「妹の万有引力」
最近、妹のことがなんだかよく分からなくなってきた。妹だと思っていたのだが茜の方からすればそれ以上を望んでいるのかもしれない。しかし俺は妹を大事に思っている。だからこそ俺は妹の一生を保証できない。愛していると言われて悪い気がする人はいないのだろう。最近俺の心がどういう意志を持っているのかが妹のことに関して曖昧になりつつあった。
「お兄ちゃん! 朝ご飯ですよ!」
茜の声で意識がハッキリする。今日は平日、時計は……八時……
俺は急いで着替えキッチンに向かう。
「悪い! 寝坊した!」
「ああ、お兄ちゃん、カレンダーを見てください」
「え?」
カレンダーの今日の日付は赤くなっていた。
「祝日っていいですよね!」
「着替えてくる、ところで父さんと母さんは?」
「社畜に休みはないんですよ?」
社会の闇に切り込む気は無いので無言で部屋に帰った。無事着替えが終わるとキッチンに戻ってきた。
「着替えてきたんですか……制服のお兄ちゃんも好きですよ?」
「それはどうもありがとう。制服は窮屈で苦手なんだよ」
何故制服はいちいち窮屈なのか? フォーマルな場でも使えるようにするためだろうか? あいにくと現在の両親が結婚式を挙げなかったので出番の一つが無かった。
「では今日の朝食はベーコンとスクランブルエッグとトーストか」
「ええ、私もお休みなので少し手を抜きました、いけませんか?」
「まさか! 任せているのに文句なんてつけないよ」
「しかしお休みだからと言ってお兄ちゃんに甘えるのは平日同様にするんですがね」
コイツの愛情表現は度を超えているような気がするが、それを受け止めるのも兄の度量だろう。俺は器の大きい人間だからな。トーストをかじって卵を口に入れる、ケチャップ付なのは気が利いている。
「ごちそうさま」
「お粗末様でした」
「お兄ちゃん、今日は是非お兄ちゃんに私を頼って欲しいのですが、何かしてみたいこととかありますか? あ! 十八禁な事は無しでですよ?」
突然俺に与えられた権利に戸惑ってしまう。しかしキラキラした目でこちらを見ている茜が何を目的にしているのか分からない。
「じゃあ……洗い物でもしてくれるか?」
バン!
突然茜が机をぶったたいて大きな音を立てる。あっけにとられていると茜が俺に文句をつけた。
「そこは十八禁すれすれのことを要求するところでしょうが! 私という美少女がお願いを聞いてくれるというならきわどい要求をするのが当然ではないですか!」
「聞いたことも無い理屈なんだが……」
「とにかくお兄ちゃんが考えるやってみたい妹のシチュとか考えてくださいよ!」
無茶苦茶を言う茜。そもそも十八禁すれすれなどと言っていたが、俺と自分の年齢をすっかり忘れ去っているんじゃないだろうか? 世の中には十八禁と一般向け以外の区別も大量にあるということを丁重に無視している。PG12、R15さん達の存在もたまには目を向けてやろうよ……
「ほらほら、考えて考えて!」
そう言われても……シチュとか言われてもそんなに思いつくわけないじゃん。
「そうだな、冷凍庫にカップアイスがあったはずだしそれを食べさせてくれるかな?」
このくらいなら兄妹で普通……普通ということにしておこう。茜は聞くなり冷凍庫を開けてカップアイスを取り出して持ってきた。
「お兄ちゃん! あーん」
持ってくるなりマッハで俺にスプーンを向ける茜。俺は諦めてそのスプーンを口に含んだ。
「お兄ちゃん、美味しいですか?」
「ああ、美味しい」
味が変わったわけでは無いし普通にバニラアイスは自分で食べても美味しいと思います。
「ほうほう……どんな味なんですかね」
平気でさっき俺に食べさせたスプーンでもう一杯すくって口に含む。恍惚とした表情をしているが、不気味にさえ思えてしまう、非常に失礼な話ではあるのだがな。
そしてお互い順番でアイスを食べて食後、茜はスプーンを洗い、俺はアイスのカップを捨てる。今日の羞恥プレイは目撃者がいなかったことだけがせめてもの救いだ。
「ねえお兄ちゃん……」
「なんだ?」
「私の手を離さないでくださいね……ずっと……ずっと……お願いします」
俺は茜に微笑んで頷く、どうかこの兄妹の日々が続くことを、もし存在するというのなら神にでも祈ろう。
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