第37話「妹は兄との思い出が欲しい」

「はぁ……どうして私は生まれつきの妹ではなかったのでしょう……」


 ため息の一つも出るというものです。私にはお兄ちゃんとの今までの人生で積み上げてきた思い出がありません、それはとても残念なことです。


 ――


「お兄ちゃん! 今日はデートをしましょう!」


「何だよ急に……」


「お兄ちゃんとの思い出を作りたいと思いまして」


 相変わらずの妹の思いつきにも困ったものだ。でもまあ……家族……だしな、思い出くらいあってもいいだろう。


「たまにはいいか……どこに行く?」


「いいんですか!?」


「自分で言い出しておいてその反応は変じゃないか?」


「そそそそうですね……お兄ちゃんとのデートなら、そうですね……」


 茜はたっぷり考えたあとで答えた。


「よく考えると近所にデートスポットって無いですね……」


「今さら気づいたか……」


 そう、この地方都市には電車に乗らないとデートに使うような場所には行けない。地方のどうしようも無い現実だった。


「お兄ちゃんはどこか雰囲気のよさげなところって知りませんか?」


「そもそもこの辺にはカラオケすらないだろ、映画なんてもちろん見れないし、本屋……はこの前無くなったし……」


 茜は残念そうに俺に言う。


「なんで若者が都会に出て行くか分かった気がします」


 俺は少し考えて言った。


「晩飯の材料でも一緒に買いに行くか? この辺じゃスーパーかドラッグストアくらいしか買い物するところは無いし、娯楽施設は皆無だし」


「ロマンの欠片もないですがそうですね……」


 こうして俺たちはスーパーに向かった。当然のことながらヴィ○ッジヴァ○ガードのような一部お洒落を気取ったようなサブカル勢が行くような店でも無ければド○○ーテのように一部に強い支持層があるディスカウントストアでもない、本当に毎日の食事を買うためのスーパーだ。


 スーパーに着くと茜がため息を一つ吐いて俺の質問をした。


「お兄ちゃん、なにか夕食の希望はありますか? せっかくなので一緒に買ってきたもので作ってあげますよ」


「じゃあカレーかな」


 俺はあまり深く考えること無くそう答えた。二人でカゴを一つずつ取って買い物を始める。


「お兄ちゃんも何か買うんですか?」


「ああ、コーラが切れてたなと思って」


「デブりますよ?」


「あいにく俺は命を削って生きてるんでな、多少健康に悪かろうが構わんよ」


「刹那的な生き方はオススメしませんよ……」


 そんなことを言われても、俺はその日その日を生きるだけで精一杯で、明日の予定など決まっている日の方が少なかった。ましてや十年後の健康など言わずもがなだろう。


「俺はそういう生き方が好きなんだよ……」


 そう言うと茜が俺に食い下がってきた。


「ダメです! お兄ちゃんは私と幸せな余生を暮らすんです! お兄ちゃんだけ体を壊したら私が困ります!」


「悪かったよ……」


 生き方を変える気は無いが一応謝っておく。茜にはつよく生きられるメンタルをつけて欲しいところだな……


「お兄ちゃん! カレーは辛いのと甘いの、どっちが好きですか?」


「辛口で頼む」


「はい、じゃあこれでいいですね」


 そう言って辛口のカレールウをカゴに放り込む。俺は近くにあったコーラに手を伸ばし一本カゴに入れた。


「お兄ちゃん、カレーにコーラはあわないと思いますよ?」


「ものは試しって言葉を知らないのか?」


「しょうがないですねえ……」


 その後も俺はジャンクフードをいくつかカゴに放り込み、茜の方はカレーの材料を入れていった。


「お兄ちゃんは自分の体のことを考えましょうよ……お兄ちゃんの体の話なのに私の方がよっぽどお兄ちゃんの健康に気をつかってますよ?」


「人生は短いんだから食べたいもの食べるのが正解だよ」


「断言しましたね……」


 その後、茜に『ジャガイモは入れるのか?』とか『牛肉ですか豚肉ですか?』などのカレーについての質問を聞いて俺たちは会計を済ませた。


「お兄ちゃん……カレーが美味しかったら褒めてくださいね?」


「美味しいに決まってるだろ? 妹が作ってくれたものが不味いはずないだろ」


「へ!? そうですね! ふへへ……」


 こうして俺たちは帰宅した。やはりというべきか茜の作ったカレーは非常に美味しかった。茜を褒めると『ありがとうございます!』と言って部屋にダッシュで帰っていった。俺も部屋に帰ると隣の茜の部屋から何とは言わないが艶めかしい声が壁越しに聞こえてきた。アイツの考えは理解できないな……

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