第24話「妹にプレゼントをもらった」

「へへへ……おにーちゃん! これを受け取ってください!」


 そう言って茜が箱を指しだしてくる。


「なんだこれ?」


「お兄ちゃんへのプレゼントです!」


 プレゼント? はて、俺の誕生日でもなければ特に何か特別な日ではないはずだが……


「なんでまた急に? 今日って何かの日だっけ?」


 茜は分かってないなあという感じで俺に語る。


「何かなければプレゼントをしてはいけないというルールは無いでしょう? お兄ちゃんにあげたくなったからあげるんですよ!」


 何が入っているか分からないが、善意からだろうし素直に受け取ってお礼を言った。


「ありがとな、茜」


「ふへへへ……」


 だらしない笑顔を浮かべる茜だが、俺はお返しが高く付くんじゃないかと危惧していた。


「お兄ちゃん、お返しとかはいいのでプレゼントはちゃんと開けてくださいね?」


「ああ、もちろんだよ」


「それでは私は宿題があるので戻りますね。お兄ちゃんも勉強頑張ってください!」


「ああ、それは健全な思考だと思うぞ」


 いつもの不健全な思考からすれば至極真っ当な意見だ。そしてそそくさと茜は自分の部屋に帰っていった。俺はもらったプレゼントを開けてみた。そうすると……


「どうしろっていうんだよ……」


 中身は妹モノラノベが一〇冊と、手のひらサイズのクマのぬいぐるみだった。何故この組み合わせになったのかは分からないが、俺も宿題があるのでぬいぐるみを机の端において勉強を始めた。


 一冊を手に取ってあらすじを読んでみる。このジャンルについては詳しくないのだが、突然妹が出来て戸惑いながらも恋に落ちていくという流れらしい。ちなみに妹の好感度は初登場時からMAXで、恋のライバルに同級生や後輩が出てくるらしいが基本的に負けヒロインらしい。負けヒロインも好みに入る俺としてはそういったサブヒロイン達が幸せになってくれるのだろうかなどということが気になる。


 ふと気がついたのだが、隣の部屋、つまり茜の部屋が非常に静かだった。ゲームで負けたり、動画サイトのサウンドがこちらまで響いてくることがよくあるというのに今日は妙に静かだった。


「さすがに兄に妹モノのラノベなんて渡したら恥ずかしいわな……」


 さすがのアイツにも羞恥心というものがあるのだろう。アイツがどんな意図でこの本達をプレゼントしてくれたのかは知らないが、普通に恥ずかしいと思っている程度の心はあるということに安心するよ。


「一冊も読まないわけにはいかないよな……」


 なんであれ妹が身銭を切って俺のために購入してくれたものを読まないわけにも行かないな……


 ジャンルをよく知らないので俺はイラストが一番好みだった『妹と兄のあいだで』というタイトルの本を開いて読んでみた。


 内容は王道(?)で、幼少のころに出来た義理の妹との関係に悩みながら、ギクシャクしていた関係を修復し、サブヒロイン達の告白を断って妹と付き合うという内容だった。


 どこかこのストーリーのアフターを想像するとバラ色の明るい未来は無さそうだが、それを分かった上で主人公が兄妹の小さな幸せを大切に生きていく決心をするシーンには不覚にも感動してしまった。


「面白い……な」


 うん、正直になろう。文章力もあれば内容に山も谷もあり読んでいて面白い内容だった。そこで気がついたら窓の外の空は夕焼けの赤になっていた。どんなジャンルでも読まず嫌いは良くないな。


 本を置いて夕食のために部屋を出ようとしたところで茜とかち合った。


「……」


「……」


 気まずい……妹に妹モノをプレゼントされるというのはなんとも気まずい物がある。というかどういうつもりであんなものを送ってきたのか?


「お兄ちゃん! いわなくても結構ですよ、私は全て分かっていますから!」


「お、おう……そうか」


 そのまま家族での夕食を済ませ部屋に帰る。なんとなくこれがあると気まずいなと思って読んだ本は全て本棚の隅の方にしまい込んでおいた。下段なので普段生活している文には目に入らない場所だ。これで精神衛生上は少しマシになるだろう。


 やけに重いぬいぐるみも机の中に放り込んでおいた。やけに重いぬいぐるみをポンと放ったときに『カシャン』というぬいぐるみに似つかわしくない音と隣の部屋からバンと音がしたがもはやその関係性について考えるほどの気力は無かった。

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