第23話「妹と兄とスマホゲーム」

「お兄ちゃん! 助けてください! ピンチなんです!」


 もうこの時点でどうでもいいことなのが容易に分かった。日本の日常でそうそうピンチになる事など無い。国民に銃を持つ権利は無いし、刃物でさえ職質のえじきになる国で命の危険などあるはずが無いので気にしていない。


「なんだよ、どうせたいした事じゃないんだろう?」


「モンスター対戦でランクマッチしてるんですがランク落ちしそうなんですよ!」


 非常にどうでもいい話だった。そもそも俺も付き合いでインストールはしたがランクマッチができるほどレベルが高くない。茜と協力プレイを数回しただけなのでまだ二か三くらいのランクだったと記憶している。


「それは俺にはどうしようもないな、自分で頑張れ」


 その言葉に納得がいかなかったのか茜は非常に不満げにしている。俺はソシャゲとなると、オートモードとスキップシステムがある育成ゲームくらいしかやる気がないので、実力がもろに出るゲームらしいゲームは苦手なんだよ……


 生まれたときから家にあったゲーム機では熱心にプレイしていたのだが、光学ドライブが死んでしまいスマホゲームに移った。確かにグラフィックは綺麗だし、サービス終了しないかぎりいくらでも続けられて、イベントは途切れることなく開催されている。しかし俺はそれに慣れてしまい自分で操作するゲームが極端に苦手になってしまった。人間よりプログラムの方が強いというわけではないのかもしれないが、戦略を考えるよりオートにして敵を一方的に蹂躙する方が好きだ。


「ではお兄ちゃんがランクマッチに参加できるまでレベリングをしましょう!」


「なんでそうなるかなあ……」


「善は急げです! 私の部屋に来てください!」


 グイッと手を引かれ茜の部屋に入ってきた。ジロジロ見るのは失礼だと思うのだが机の上やベッドサイドに俺の写真が立ててあるのはなんとも落ち着かない光景だった。


「ではお兄ちゃん! 私が操作の指導をしますので敵どもをバッタバッタとなぎ倒してください!」


「簡単に言うなあ……」


「大丈夫ですよ! そのレベル帯なら強キャラも解放されていませんし、基本に忠実に戦えばまず負けません!」


「ホントかよ?」


 そうしてゲームを起動したのだが、まずはインベントリから装備品の指定が入り、戦略的なことも教えてもらうことになった。どうやら始めは敵とぶつかるルートを選ぶといいらしい。敵も戦力が整うまでは戦闘を避けるので意外と戦闘にすぐなる事は少ないらしい。人の少ないルートに行くと経験値や装備を調えた敵が待っているので逆に危険なんだそうだ。


 俺はチャットで『正面ルートに行きます』と表明してバトルが始まった。


 茜の操作指導は一々的確で、雑魚を倒して経験値を稼ぐのを優先して、二対一などの状態になったら危険なことはせずすぐに撤退を指示された。敵チームの方は俺の芋プレイに手をこまねいているあいだに数で圧倒しようと主力を中央ルートに固めてきたのだが、それによって他のルートががら空きになり、気がついたときにはもう遅く、味方達が敵チームのホームに攻め込んでいた。相手は俺を無視して急いでホームに戻ったのだが時すでに遅く、敵のホームは破壊され俺たちのチームの勝利となった。


 逃げることも多かったのでキルレは決して良くなかったのだが、何故かMVPに推薦してくれる人が多くチームからの推薦でMVPになり、経験値もそれに伴って大量に注ぎ込まれた。


「ね? 簡単だったでしょう?」


「明らかに俺の実力じゃなくてお前の戦略の勝利だよな?」


「甘いですね、勝てばいいんですよ勝てば! チートも何もしていないのだから堂々と評価されればいいんです!」


 どうやら過激派の考え方らしい妹に、もう少しモラルというものを学習して欲しいと思わずには居られない。


 そうしてその日は茜の指導の下レベリングが行われた。一々的確な指示を出すのでチームが弱くないかぎりはよほどの場合以外勝てた。あっという間にランクマッチに参加できるレベルになったのだが、俺には自分の実力だとは到底思えず、寄生プレイで経験値をすっているような感覚を覚えた。


 そしてようやくランクマッチに参加可能なレベルになると、茜とチームを組んでバトルに参加したのだが……茜は自分の操作と俺への指示を同時にする必要があるということを忘れていたらしく、結局勝利の女神は俺たちに微笑まなかった。


「うぅ……ランクが落ちました……」


 そう言っている茜だが、俺は身の丈に合わないという言葉を思い出すばかりで、当然の帰結だと思ったが、茜も割とすぐに気を取り直し俺とのチーム戦を楽しんでいたのでこれも怪我の功名というのだろうな……

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