第10話「妹と祝日」
「いやー祝日はいいですねえ! おやすみってこんなにいいものなんですね!」
「そうだな、さすがにそれには同意するよ。休日というのはいいな」
俺は休日を満喫していた。長期休暇ではないので厄介な課題や補講も無い、純粋無垢な突然の休日だ。それを楽しまない手はないだろう。
そんなわけで俺たちは自宅でグダグダとだらけていた。なお、両親ともに社畜なので今日も出勤している、社会人は大変だと思う。
怠惰極まる日常を送っていたのだが、やはり一人ではなく兄妹というのは少し違和感がある。
「お兄ちゃん! レート戦しましょうよ!」
茜がスマホでMOBAゲームを起動させている。俺はそれに怠惰な答えを返す。
「えー……そのゲーム、ギスギスオンラインってあだ名が付いてるじゃん、仲間ガチャなんて言葉もあるしさあ、あんまりやる気起きないんだよな」
現実逃避にゲームをやるのに現実のしがらみをネットにまで持ち込みたくない。
「大丈夫ですよ! ちゃんと一回試合したら別れますからね、その場限りの関係でボイチャすら無いのに一々気にする方が損ですよ!」
「それってネットで晒されるパターンじゃないか?」
「大丈夫ですよ! 切断とかキルレがよっぽどヤバいとかじゃなければ文句なんて付きませんって!」
強引に押し切られる形で『レジェンドモンスター』というゲームでタッグ戦をすることになった。
「お兄ちゃん! 一匹漏らしてますよ!」
「今から行くって、ちょっと待ってくれよ! こっちが足の遅いキャラを使ってんの知ってるだろ?」
「ああ! また逃げられた! お兄ちゃん後始末してください!」
「分かってるよ! あ! 逃げやがった」
見事にギスギスしていた。この手のゲームはレートがあるので負けると明確な損が出る、金になるようなものではないとは言え皆ランク落ちを嫌って必死になっている。こうなるから気が進まなかったんだよ……
その後、俺が足を引っ張ったものの、茜のランク落ちは無く、ギリギリのラインは死守したと言える。
「お兄ちゃん! 妹におんぶ抱っこの戦術はどうかと思いますよ?」
「じゃあランク落ちした方がよかったか? 言っておくが俺の実力だとキルレは絶望的になるぞ?」
「なんでちょっと自慢げなんですかねえ……」
不毛な言い争いにもげんなりしたので部屋に戻ろうとすると茜が手を引っ張った。
「まあまあ、まだ良いでしょう? ゲームは他にもたくさんあるんですから」
「そう言ってもな……俺がプレイしてるゲームなんて大概ソロプレイだぞ」
ガチャを引くのは楽しいがマルチプレイと言えば闘技場でのスコアアタックくらいしか無い。
「せっかくですしお兄ちゃんのゲームプレイを見物しましょうかね……」
「もうログボはもらったしデイリークエストはこなしたからすることないんだよなあ……」
そう言うと茜はニヤリと笑いポケットから一枚のカードを出した。
「コイツでお兄ちゃんの運勢を占ってみましょう!」
そう言ってチャージ画面を出せとせがまれる。石が欲しいのは確かなのでチャージ画面を出してバーコードを読み込む。すると三千円が俺のアカウントにチャージされた。
「なあ……お前が買ったんだろ? 本当によかったのか?」
「良いですよ、気にしないでください。お兄ちゃんというコンテンツに課金したと思っていただければ良いです」
何だその意味の無さそうなコンテンツは……
「ささ、早く石を買って回しましょう!」
「分かったよ……」
俺はゲーム画面に戻り、医師の購入画面を出す。三千円の十連分、石を買ってガチャの画面を出す。
「じゃあ回すぞ?」
「一気にいっちゃいましょう!」
魔方陣が出てきてノーマルの赤色が七つ、レアの金色が二つ、スーパーレアの虹色が一つ出た。
「お、確定演出じゃん」
「どうです? 私のお金で回すガチャは?」
「楽しいよ、でも恩に着せたいなら始めからそうしろよ、課金してから恩に着せるのはどうかと思うぞ」
しかし茜は事もなげに言う。
「お兄ちゃんは私が無償で施すとでも思ったんですか? そりゃあ見返りくらい求めますって!」
結構な性格だな……しかし俺がゲームでスーレアをゲットできたのは間違いないので一応お礼くらいは言っておこう。
「助かったよ、イベント限定は諦めてた。ありがと」
「そうそう、妹に感謝していいんですよ? もっと誠意を見せてくれてもいいですし、なんならお礼の品をくれてもいいんですよ!」
「兄に集るんじゃない……」
感謝をするとどこまでも代償を求める、確かに俺は施された身だけれど調子に乗りすぎではないかと思う。しかしスポンサー特権というものもあるし、このキャラがいればイベント周回が楽になるので感謝はそれなりにしている。
「ありがとな……」
「へへへ……」
だらしない笑顔を浮かべる妹を見ながら、そういえば家族になってから経済的に親が愚痴ることもなくなったし、確かにいいことなのだろうとは思う。皆それなりに利益を得ているのだから否定することでもないのだろう。
「茜、一ついいか?」
「なんですか?」
「『レジェンドモンスター』のトレーニングモードの部屋を開くから参加してくれるか? 少しは上達したいんだ」
「もっちろんですよ!」
茜はそう言ってスマホを手に取りアプリを起動していた。その日の残りは俺の特訓に費やすことになった。俺は相変わらず弱いままだったが、一緒に遊んでいると茜が不満の一つも言わないので、始めからレート戦ではなくトレーニングにしておけばよかったのだろうと思う。
そして今日一日丸々費やしたおかげで俺も多少強くなり、寝る前に一試合やっておこうと思いプレイしたところ、案外軽く勝ってしまった。これがブレイクスルーというやつなのだろうかな、そう思いながらスマホを置いて布団に潜ると意識は遠のいていった。
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