第11話「妹とSNS」

「お兄ちゃん、つぶやいたーのアカウントなんですけど」


「教えないぞ」


 誰がSNSのアカウントなんぞ教えるものか、リスク以外の何物でもない。


「いえ、特定はほとんど出来ているんですがね、妹関係のつぶやきをしている人がいないのでそこで止まってるんですよ」


「えぇ……当たり前のように特定するのやめてくれない?」


「いいじゃないですか! 家族なんですよ?」


「ちなみに疑惑のアカウントってどれ?」


「言うわけないじゃないですか! お兄ちゃんに垢デリされるのが目に見えてますもん!」


「そう思うなら人の嫌がることはやめような?」


「人の嫌がることは進んでやるものですよ?」


「意味が違う! そう言う意味じゃねえよ!」


 その言葉は嫌がらせを進んでやれという意味ではないぞ……


 つーか言わないのかよ……俺のアカウント運用も気をつかう必要があるな。まあプライベートの内容は流していないので茜の勘では見つけようがないとは思うのだが。


「ちょっと部屋に帰るな!」


 俺はダッシュで部屋に帰った。そしてPCを起動してSNSを片っ端から開いてみる。アクセスの様子や、フォローフォロワーの様子、いいねをつけたアカウントを総ざらいする。今のところ特定できていないのかどのアカウントにもアクセスされた様子はない。危険な近辺はしばらくアカウントから逃げるべきだろうか? しかしそれをやった場合『最近閉じられたアカウント』の検索をされる可能性がある。尻尾を出さずに無難な投稿だけをして逃げるべきだ。


 スクリーンロックをしてリビングに戻る。気配は一切出してはならない。念のためメールアドレスによる検索機能を無効にしておいた。茜の勘からすれば焼け石に水かもしれないが漏れそうな箇所は塞いでおくべきだ。


「お兄ちゃん、『私』は見つかりましたか?」


「え!? ええっと……今目の前にいるじゃん?」


「またまたあ! どうせお兄ちゃんのことだから私がフォローやマイリスしてないか検索してきたんでしょう? そのくらい妹歴の浅い私だってわかりますって。まあ私にお兄ちゃんを見つけられてもお兄ちゃんに私は見つからないでしょうけどね」


「お前のアカウント見せて?」


「ダーメ! そういうのは苦労して探してくださいね?」


「くっ……妹が厳しい」


「可愛い兄には妹を探させよって言うじゃないですか!」


「近代史にも出てきそうにないことわざだな……」


「金言にそれが作られた年は関係ないですよ!」


「うん、作ったのが自分じゃないなら正論かもな」


 名言メーカーじゃないんだからさ、無茶苦茶な言葉を捏造するのはやめようか。


「私が名言を作るのではなく、私の発言が名言になっているだけですよ!」


「まず名言になってから言おうか、まだどこかのガキ大将の『俺の物は俺の物』の方が有名だぞ」


 茜は楽しげに笑いながら俺の言葉をさらりと流す。お前は自分が世界を動かしているとでも思っているのか……


「しかし、そう言うからにはお前の発言を検索にかければ見つかるのじゃないかな」


 さあっと茜の顔が青ざめた。


「おおおお兄ちゃん!? そういう物騒なことをするのはやめましょう! 人の嫌がることはやめましょうって言うじゃないですか!」


「たった今その言葉の説明を聞いたような気がするんだがな……」


 自分の解釈を自由に変更できるとか議論で無敵すぎるだろ……


「まあまあ、私の発言は忘れてもらうとして……」


「しれっと無かったことにするなよ……」


 俺はスマホにさっきからの会話を入力して検索する。顔本は当然のごとくヒットしない、つぶやいたーについては似たような発言をしている人が多すぎて当たらない、検索エンジンでは『いかがでしたか?』が山のように出てくる。ネットの地獄アビスかな?


「ふぅ……あぶないですね、特定されるかもしれないというのはスリルがありますね……」


「お前がまず人を特定しようとしていたくせに自分だけはさっさと逃げ出すのはどうかと思うぞ」


「私は天が保護してぬるま湯で育てろって生まれたときに天啓を受けた美少女ですからね! そのくらいの権利は当然のごとく生まれながらあるんですよ!」


「それはただの自己中心的思考では?」


 コイツと議論をしていると自分の考えがまともなのか疑問を持ってしまう。本当にそれでいいんだろうか?


「ふっ……お兄ちゃんは私がそんなにすぐボロを出すアカウント運用をしていると思いましたか?」


「たった今焦って書き込みを消してたのは分かった」


 茜は驚愕した顔をする。


「な……なぜそれを!?」


「いや、今の発言の流れからスマホを必死にいじってれば分かるって。後カマかけに安易に引っかかるのはどうかと思うぞ」


 たった今消して安心した顔をしているからな。コイツはやることが一々安直なんだよ。


「かまをかけた……お兄ちゃん! 私をたばかりましたね!」


「いや、行動から安易に推測できるだろ」


 茜はため息をついて言う。


「まあいいですよ、お兄ちゃんは私のアカウントを見つけられないのは動かないですからね」


「別に構わないが……なあ茜、そもそもの話をしていいか?」


「なんですか?」


 茜は一切気がついていないようだが先ほどの宣言の問題を述べる。


「俺を監視するって宣言したらどう考えても発言に気をつけると思うんだがそれでいいのか?」


 俺の発言は一切されなくなる可能性も含めている。


「ぐぬぬ……お兄ちゃんは妹にアカウント情報を素直に提供する気は無いのですか!?」


「無いよそんなもん」


 俺たちの何気ない日常はいいなと思った、しかしそれについて書き込む場所がないことは少しだけ残念だな……

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