第4話「家族(二人)でお出かけ」

「皆で出かけようって?」


 俺の疑問に茜は力強く頷く。


「はい! 父さんも母さんも是非行きましょうといっていました!!」


 まったく……俺の都合は完全に無視かよ……


 寝起きに俺の部屋の前で全力で待機していたという茜は元気よくそう言う。俺は休日の朝っぱらから割とどうでもいい話をされて今すぐにでもベッドに戻って二度寝したかった。


「皆で出かけるのか?」


「はい! 二人とも是非親睦を深めたいとおっしゃっていましたよ!」


「そ、そうか……」


 断ることは簡単だが、突然増えた家族を無下にするのもどうかと思う。そのくらいの人間らしい心は俺にだってある。そうだな、突然だけど家族らしいことなんてしていないもんな。


「分かった、着替えるよ」


 バタンとドアを閉めようと思うと、そのドアの縁に手をがっと掴まれた。


「お兄ちゃん! よろしければ私がお着替えのお手伝いを……ハァハァ」


「いや、自分で出来る」


 そう言ってさっさとドアを閉めたのだが、閉まりきる直前に『チッ』と舌打ちしたような音が聞こえた気がするのは気のせいだろうか?


 ちゃちゃっとシャツを着替えてジーンズを穿いて出かける準備を整える。無精なおかげで服の選択肢が少ないので悩まなくて済む、どこぞの会社の元CEOも同じような方法で効率化していたらしいが俺の場合は純粋に服とかいうものに脳と財布のリソースを割きたくなかっただけという理由だ。


 財布とスマホをポケットに入れて準備完了、この年で家族でお出かけというのも少し気恥ずかしいがその辺は俺の事情を知っている連中はそれを汲んでくれると信じている。


「お待たせ」


 ドアを開けるとゴンと音がした。何かと思えば茜が額を抑えてうずくまっている。


「何やってんの?」


「お兄ちゃんの着替えが気になりまして……」


「いや、そうはならんやろ」


「なっとるでしょうが!」


 くだらないやりとりも心地よい。これが当分の間続いていくのか? この心地よさと面倒くささを合わせた気持ちと当分の間向き合わないといけないようだ。


「じゃ、行きますか!」


「そういえばどこへ行くんだ? 聞いてないぞ」


 茜は首をかしげてから頷いた。


「そういえば言ってませんね、お買い物です!」


「なるほど、案外普通だな」


「おっと! 電話が入ってきました!」


 突然スマホを取り出して耳にあて『ふんふん』とか『なるほど』とか頷いてからスマホをポケットに入れて俺に向き直った。


「お兄ちゃん! 父さんも母さんも急な用事で行けなくなったそうです! いやー勝手なものですねえ! まあでも、家族の交流というのは大事ですしお兄ちゃんと二人で行きましょうか!」


 早口でそうまくしたてる茜、ちなみにスマホが振動する音も着信を知らせるディスプレイも見えなかった。なによりそもそも親なら直接言えばいいだけのはずだ。どうして茜に電話で伝える必要があったのか?


「それで二人とも何の用事が入ったんだ?」


 軽く探りを入れてみよう。


「へ!? ああ、そうですね……体をサイボーグにするために宇宙の果てに行くとか?」


「ネジになりそうな話だな……」


 雑すぎる! 嘘を言うなら細部を詰めろと教わらなかったのか! そういうところから真偽の疑いが入るんだぞ、細かいとこにまでこだわれよ!


「まあまあ、それじゃ、お買い物に行きましょうね! 電車でしばらくのショッピングモールでいいですか?」


 俺は全てを諦めて頷いた。


「別にいいけど近くで大体何でも揃うのにわざわざ電車に乗るのか?」


「そうですよ! 近くだと誰かに出会う可能性があるじゃないですか!」


 案外細かいことを気にするやつだな。俺は昨日今日兄妹になった急造の同級生が一緒に歩いていても皆気にしない気がするが。


「そういうのは……既成事実の方が先に要りますしね……」


「何か言ったか?」


「イイエ、ワタシ、ナニモイッテナイ」


「まあ引っかかるところはあるが出かけるか、電車の時刻表は見たか?」


「時間ならバッチリチェック済みです!」


「そうか、ならさっさと行くとするか」


 もはや準備が妙によかったりすることにとやかく言う気も起きなかった。この新しい妹とこれから暮らしていくのだからお互い多少の配慮はするべきだよな。


「はい! 一緒に行きましょう!」


 そうして俺たちは駅に向かった。

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