第27話 街道
『リュウキ、エレナ、シゲル、ユウコ、トーマ、ゴロー、タカコ、シンノスケへ。この小屋の中の物は自由に使っていい。油断せず、進め。スレイ』
小屋の中に置いてあった封筒の中にはそう書かれた紙が入っていた。その打ち捨てられたような小屋の屋根の上でトーマが周りを見張っている。シンノスケとゴローがそれぞれに辺りを警戒している中で、リュウキはその紙を手に持ち読み上げた。エレナとタカコはリュウキの傍でその紙を覗き込んでいる。小屋の扉を開けた入口の床にその封筒を見つけたのはユウコだった。ユウコはその中の紙を一瞥してすぐにそれをリュウキに渡し、小屋の奥に入っていた。
「流石のスレイさんもシゲルが自分の下に残る事までは予想出来なかったんだな」聞こえて来たリュウキの声に反応してトーマは呟いた。
「スレイさんの手の平の上からちょっと出る事ができたシゲルグッジョブって伝えてやりてえな」ゴローが言う。
「みんな、スレイさんスレイさんって、もうすっかりあの人を認めてるのね。私はやっぱり今でも苦手だわ。とても怖かったんだから」と言ったのはエレナだ。
「あの人も敵対関係だと言っていたからね。僕たちの事を。エレナのその感覚は大事だよ」ポツリとシンノスケは呟く。
「だが、これらの物資はありがたい。シゲルの話を聞いていなかったら、これらも警戒の対象だったはずだけどな」リュウキは笑みを浮かべながら言った。苦笑いを多分に含んだ笑顔だ。
「とはいっても、警戒は必要よ。いろんな可能性を思いながら進まなくっちゃ。危機管理はちゃんとしながら進まなくちゃ」タカコが言う。
「そうね。んぐ。警戒は怠らずに……、
「何食べてんだー!」
「何食べてるの!」
「ユウコちゃん!」
リュウキとエレナとタカコが一斉に叫んだ。
「何って。パン」キョトンとした顔でユウコは答えた。
「だからな。パンを食べた事を咎めてるんじゃないんだ」
「はいはい。分かりましたよ。でも、スレイさんのあんな手紙を見ちゃったら、そりゃ油断くらいするわよ」
「いや、そうじゃなくてだ」
そう言い合っているリュウキとユウコの間にゴローが「まーまーまー」と割って入る。「スレイさんがどれだけ信用できる人だとしても、スレイさんの指示であの小屋に物資が入れられて、そのあとオレ達が来るまでの間に、通りすがりの悪いヤツがあのパンに毒を仕込んだ可能性までを考えなきゃいけない。そういう事だろ?リュウキが言いたかったのは」
リュウキ達七人は森の中の街道を進んでいる。長い年月をかけて踏み固められた交易路といった風情の道だ。
「通りすがりの悪いヤツって誰よー」ユウコは口を尖らせる。
「んー。盗賊とか?」
ゴローのその言葉でエレナがピクリと身体を震わせる。
「盗賊、いるのかな」タカコが呟く。
「今のところは斥候としてトーマが先行してくれているから大丈夫だろうけど。警戒はしておいた方がいいね」シンノスケがタカコに言う。
「そう言えばこの道を反対に進めばイルゴル王国なんだよな」地図を眺めながらゴローが言った。
「まぁ、そうなるな」リュウキが言う。
「オレ達はケモノ道みたいなところを通って森の中を進んで、さっきの小屋について、そのあと、またケモノ道を通ってこの街道に出たよな」
「それがどうかしたか?」不思議そうな顔をしてリュウキは聞く。
「この地図のこの街道、イルゴル王国まで繋がっていないんだ。イルゴル王国方面に向かっているけど、途中で途切れてる」
「ん?見せてくれ。……、本当だ」リュウキはゴローの手から地図を取り、言った。
「もしかしたらなんだけど……」ゴローは言い澱む。
「どうしたんだ?ゴロー」リュウキはゴローの顔を覗き込む。
「もしかしたらなんだけどさ。この街道は元々各地とイルゴル王国を繋ぐ交易路として機能していて、かつてはイルゴル王国にも繋がっていてさ。でも、周辺国からイルゴル王国への侵攻が絶えなかったからイルゴル王国が街道を閉ざしたという可能性があったりしないかな」
「どういう事?」ユウコが訊ねる。
「つまり、血の気の多い乱暴なヤツが多い地方が、この道の先にあるかも知れないって事」ゴローはそう答えた。
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