第22話 スレイさん
「さて、これからどうする?」まず、口火を切ったのはシゲルだ。
スレイ達が引き上げた後、小屋の中には八人の異世界人が残った。
「流石に武器は持たせてくれなかったけど、数日分の食料と水、それから地図まで置いていってくれたな。至れり尽くせりだ」トーマが言った。
「自力でネフト王国に向かうのなら止めやしない。でも、イルゴル王国に攻め入ってくることは許さない……という事だな」ゴローは言う。
「ネフト王国に戻る以外の選択肢はないだろう。魔王国に再び入る事など考えられないし、ココにじっとしていたところで飢えて死ぬだけだ」リュウキが言った。
「イルゴル王国、な。リュウキ」シゲルはリュウキに注意する。
「なんだよ、シゲル。すっかりスレイに懐いてしまったのかよ!」
「そういう訳じゃない。名を正しく呼ぶ事は最低限の敬意だろう?」
「魔王国は魔王国。魔王軍は魔王軍。そう教えられて、そう呼んできたじゃないか。今更変えるのもおかしな話だ」
「イルゴル王国が自らを魔王国と称しているのなら、いいんだがな。リュウキ、こういう時は置き換えてみるんだ。タカムラリュウキがオマエの本名だろう?それをからかうようにダサムラジュウキとかそんな風に呼ばれたらイヤだろう?名を正しく呼ぶのは敬意だ」
「しかし、名を知る事で魔法や呪いをかけられるとか言っていたスレイ自身は正直に名乗っているとは限らないじゃないか」
「それは、また、別の話だ」
「スレイさんはスレイさんだよ。本名だよ」
リュウキの言葉にシゲルとトーマが同時に言い返した。トーマ以外の者の目が一斉にトーマに集まる。「え?」と。
「っと、みんなに注目されるとちょっと焦ってしまうな。オレ、ニンジャなのに目立ってどうすんだって感じだし」トーマはそうやっておどけてみせ、一つ咳ばらいをして話し始めた。
「昨日の夜、オレは牢屋を抜け出して……、って、牢屋って言うか、オレが入れられていたのはゴミ置き場だったんだけどさ。ニンジャらしくお前たちを探しながら城内をマッピングしていたんだよね。そしたら、たまたまスレイさんとあの山羊頭の男、えっと、そうそう。バルバスって呼ばれていたな。二人が話し込んでいる部屋に辿り着いてね。彼らの話を盗み聞きしてたんだよ。バルバスはスレイさんの事をスレイ様と呼んでいたしね。彼らが二人きりで話していたんだ。スレイって名が偽名である事はあり得ないよ」
それを聞いたシゲルは立ち上がり、ユウコに目配せをした。するとユウコも立ち上がり、シゲルと連れ立って簡素な壁で仕切られた奥の間に入って行った。そして、二人はすぐに広間に戻ってきた。果実や野菜が盛大に盛られた大きな籠をそれぞれが抱えて。
「なになになに?」「それはいったいどうしたの?」エレナとタカコが色めきたって言った。
「実はだな」シゲルがおずおずと言いかけた所でユウコが割って入る。「今朝、シゲルと私はスレイさんに町の様子を見せてもらったの」
「なに?」リュウキは二人を睨む。シゲルは思わず両の手のひらをリュウキに向ける。ユウコは構わず続ける。「私たちが魔族と呼んでいるイルゴル王国の住民たちの生活を見せたかったんだって、スレイさんは言っていたわ。戦場での命の奪い合いは仕方がないけど、戦場じゃないところで殺すとかそういうのはやめて欲しいって。武器を手にしていないイルゴル王国の住民は兵士じゃないんだって。スレイさん、そう言っていたんだよ。活気にあふれた朝市の様子を見せてくれたの。そしたら、スレイさんに気が付いた色んな種族の住人たちが「スレイさん」「スレイさん」ってみんなニコニコして野菜やら果物をスレイさんに渡していくの。途中からシゲルと私がスレイさんのお付きみたいになって、それを抱える事になったわ。そんな食料を「餞別だ」って私たちにくれたんだよ、スレイさん。スレイって名前が偽名なんてありえないよ」一気にまくし立ててユウコは一筋の涙を流した。「スレイさん、きっといい人だよ。顔はコワイけど」
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