第19話 夜明け
「シンノスケ、オマエはあのスレイという男をどう思う?」
「どうって?」
「オマエのところにも来ただろう?面談というか、聞き取り調査というか、尋問……と呼ぶには生易しいアレだ。スレイという男が山羊頭の男をつれて来なかったか?」
「あぁ。トーマのところにも同じように行ったんだな。うん、山羊頭の男と来たよ。そして……、そうだな。ハクヤを蹴り飛ばしたあの時は正に悪魔のようなヤツだと思った。だけど、どうやら違うみたいだ。スレイというあの男を見る時のこの国の住人たちの目は尊敬と感謝に溢れているように見える。そして、彼は相好を崩さないけど、彼から部下たちに向けられている慈愛はホンモノのように見える」
「うん。そうだな。オレも似たような感想を持っている。さらに、さっき、山羊頭の男……バルバスと言うらしいんだが、スレイとバルバスがこの夜中に話しているのを立ち聞きしてきたんだ」
「まじかよ。流石はニンジャだ」
「まー、仲間の所在を探しながら、この城のマッピングをしている時に偶然通りがかったんだけどな」
「どんな話をしていたの?」
「それがな。オレ達の前で見せていたあの姿、そのまんまだったんだ」
「どういう事?」
「つまり、同胞の死を悼み、魔石……彼らにとっての嘆きの石をオレ達が経験値として集めている事に怒り悲しみ、この国の住人の幸せを祈り、そして人間族との平和的な折り合いを探している、オレ達に見せない部分でも彼らの話はそんなだったんだ」
「トーマ……」
トーマは何かを言いだそうというそぶりを何度か繰り返し、そして何度も言葉を飲み込むように言い澱む。そんな沈黙が少し、続いた。
「トーマはどうしたいんだ?」
シンノスケがそう切り出し、短い沈黙の時間は途切れた。
「あぁ。オレは正直、あのスレイという男とじっくり話をしたい。そして、協力関係が築けるのであればそれもいいと思っている。そう、スレイはこうも言っていたんだ『シュマルカという存在に到達する事こそが、私の使命なのやもしれぬ』ってな。シュマルカにはオレも再度会って問いただしたい!」
「なら、トーマはネフト王国と決別しようというのかい?」
シンノスケは静かにトーマの目を見つめている。
「いや、オレは今回のスレイとバルバスの会話を覗き見たように、ネフト王国の要人の本音を見なくちゃならないと思っているんだ。そして、それは、オレにしか出来ない事だと思っている」
「確かにそうだね。じゃあ、どうする?」
「まずは、ネフト王国に帰る」
「その為には?」
「スレイ達と交渉するか、もしくは逃亡を図るか、だな」
「うん。そうだね。その辺りの可能性を考える事にしよう。僕も色々と考えてみるよ。で、時間的には大丈夫なのか?空が少し明るくなってきたよ」
「うぉ、マジか。やっべ。じゃ、とりあえず、オレはまたあのゴミ置き場に戻るわ。それじゃな」
トーマはそう言って部屋から出て行った。ドアの向こうでカチャカチャと音を立てていたのはドアノブの針金を戻していたからであろう。
シンノスケはその音を聞き届けた後、窓に近づき空を見上げた。白み始めた空を見上げるその目は何を見ているだろう。
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