第16話 ニンジャトーマ
トーマが閉じ込められていたのは、厨房から出る廃棄物を一時保管するゴミ置き場だった。中に閉じ込められる人間の事などはどうでも良かったが、その閉じ込められた人間への聞き取り調査の為にスレイがそのゴミ置き場内に入る事を知った調理と給仕の職員は総出でそのゴミ置き場を掃除したのだった。若干の不快な臭いは残っていたが、我慢できない程ではない……と一応の納得を彼らはしたが、それでもスレイへの申し訳なさが彼らの心に残る程には汚れていた。
そのゴミ置き場の床に顔を擦り付けるようにしているのはトーマだ。どうやら何かを探しているらしい。細い眼をより細めて、小窓から入ってくる月明かりを頼りに床に落ちているナニカを探している。左の手のひらの上に二つまみほどの草、いや、野菜の切れ端を乗せている。その野菜の切れ端の量に満足したのか、トーマは床に座り、大事そうに左の手のひらを椀状に丸めてその上の野菜の切れ端を見ながら、「ステータスウィンドウ、オープン」と小さく呟いた。そして、右手の人差し指を上下左右に動かした後に「合成、睡眠
「チュウ、チュウ……チュ……キィキィ。キィキィ」トーマはゴミ置き場の出入り口の急ごしらえの戸のそばでそんな声を小さく上げた。
「兵隊さん、兵隊さん。ネズミを捕まえたんだ。外に出したいんだ。ちょっとこの戸を開けてくれないか。キィキィ……」
トーマは戸の向こう側にいるであろうオーク兵に声をかける。急ごしらえのその戸には覗き窓もなく、互いの姿は見えない。
「ネズミくらいで騒ぐんじゃねえ。さみしくなくていいくらいだろう」
「ネズミに耳でも齧られたらイヤだよ。戸を開けてくれないなら、向こうの小窓から外に放りなげちゃうよ。でも、それもちょっとかわいそうだしさ」
「……」オーク兵は現在地の高さとそこから落とされるネズミの行く末を考えた。
「分かった。ネズミが通れる分だけ開けてやるさっさと出すんだぞ」
オーク兵はその急造の戸の閂を外し、小さく戸を引いた。するとその隙間から出てきたのはネズミではなくトーマの手で、その手の上の黒い小さな立方体からは眠りに
「よーし。とりあえずは現状把握、情報収集、この城のマッピング、かー。一応、騒ぎになる前に帰ってこれたらそれも選択肢の内、か。この兵隊さんにはこの中を見張っている
「このステータスウィンドウにチャット機能とか、仲間の所在地情報なんかがあったら楽だったんだけどなー」そう言いながらトーマは右手の人差し指を中空で動かす。
「ま、しょうがないか。いっちょ、ニンジャらしい活躍ってのをしてみましょうかね」そう言って足跡も立てずにトーマが走り出したのは、執務室においてスレイとバルバスが話し始めた頃であった。
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