第一章 3

葉っぱ同士が風に揺れて擦れる音を聞いている最中に水を差されたものだから、サンドイッチを食べる手を止めるほど気になった。


辺りを見回してみたが見当たらない。眉間に力を入れて探しているともう一度聞こえた。猫の鳴き声。


ふと見上げたら、窓の縁の僅かなとっかかりに座り込んで、こちらをみている。随分高いが、どうやって登ったのだろう。


食べ物が欲しいのだと見えて、実果は 三枚のうちの一枚をちらつかせてみた。しかし猫は実果を向いた視線をピクリともさせなかった。置物なのかもしれない。そう思わせるほどに落ち着き払った黒猫だった。実果も劣らず見続けていた。ふたつの視線は空気の隙間を掻い潜り、お互いを手繰るようにぴったり重なり合っている。波風ひとつ立たなかった。同じ気持ちでいる気になった。


「アパートじゃなかったら、飼えたんだけどなぁ」


実果が呟くと猫は壁を伝って、消えてしまった。


実果はサンドイッチを平らげると立ち上がり、制服についた埃を払って廃ゲームセンターを後にした。休憩に飽き、高校に向かうのである。後ろ姿を、ベンチの下に潜んだ猫が見送った。午後になろうとしていた。

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