第6話 ドストライクなキミへ
「……で?部員はアンタと私だけ?」
「まぁ、そうなるな。現に今部室にいるのは俺とお前だけだ」
部室の真ん中には長テーブルが一つだけ置いてあり、そこにパイプ椅子を横に並べて俺らはぼうっと部活が終わるのを待っていた。
「……お前って呼ぶな、ばか」
「はぁ?お前がアンタって俺を呼ぶんだから別にいいじゃねぇか。お前こそアンタって呼ぶなよ」
「はああ。アンタがお前って私を」
「もういい。キリがない。この話は一旦終わりにしよう」
この話に終着点がないことを速攻で気がついた俺は話を打ち切って次の話題を探した。
「そーいえば、箱峰先生なんか言ってた?」
「ああ。それね。特に何も……ラブコメ部作りやした!って言ったら笑顔で分かった!でおしまい」
「うわぁ……本当に通ったんだ……私この学校が心配になってきたわ」
「そればかりは同感だ」
今日の朝先生に報告したら、早速部室をもらって活動開始だからな……。
しかも昨日は何事もなかったように淡々と仕事をしている男性教師達には少しだけ恐怖を感じたぞ。
「それで、この部って何をするの?こうやって話してるだけで終わり?何それ合コン?先に断っておくけど私アンタみたいな変態とは付き合えないから」
「俺もお前みたいなガサツとはお断りだ。そもそも甘寧は俺のタイプじゃないんだよな―。俺の好みって黒髪ショートで清楚な感じの女の子だから」
当然のように飛んできた言葉の銃弾を素早く投げ返すと俺たちの間に沈黙が生まれた。
「はぁ!?気持ちわるっ!?聞いてもないのに何勝手にタイプなんて語っちゃってんの!?マジで無理なんですけど!?」
「ああ!?お前から吹っかけてきたんでしょうが!まるで俺がお前に気がある、みたいな言い方しやがって!どれだけ自分に自信があるんですぁぁぁ?」
「何よ!?アンタ私のことカワイイって言ってたじゃない!それってもう私に気があるってことでしょ!?」
「ちょ、おま……カワイイ=好きって……小学生かよ!お前今まで彼氏とかいたことないだろ!」
俺が冷やかし全開で捲し立てると急に甘寧は黙り込んだ。
次の言葉を待ってても反応がなく、さっきまでの高いテンションは完全に消え失せていた。
「いや、いたから。ねぇ、喉渇いたんだけど」
待て、待て。怖いこわいこわい。
そんな冷たい声で催促しないで!
目の光はどうしちゃったの?
どうしてパイプ椅子を頭上に持ち上げてるのかな?
そんな甘寧を目の当たりにしちゃったらさ……。
「よろこんで!」
買いに行くしかないじゃん♫
俺は急いで教室を後にした。
アイツに男の話は厳禁だ。
絶対に忘れちゃダメだからな。未来の俺……!
◇
「えーっと……甘寧は何が好きなんだ……」
体育館の通路に設置されてる自動販売機に俺は小銭を入れ指を空に遊ばせていた。
ここでミスをしたらパイプ椅子を脳天にかち込まれそうな気がするためミスはできない。
麦茶か、コーヒーか。はたまた清涼飲料水系か。
俺調べなんだがああいうツンツンしている女はお汁粉が好きなイメージがあるんだよな(テキトー)。
けどこうして冷静に考えてみるとなんかこき使われてるのは気に食わないしちょっとだけ反撃しよう。
今日は暖かい日だし、あったか〜いお汁粉を買っていくことにした。もちろん俺はコーラをチョイス。
え?少し汗ばむくらいの気温なんだから冷たい飲み物が飲みたいに決まってるだろ?
俺は自分の命を守るためにパイプ椅子の捌き方を脳内でシュミレートしながらきた道を戻る。
体育館通路から校舎に入り、角を曲がろうとした瞬間。
「きゃっ!?」
「うぉぉ!?」
体に衝撃が走り、甲高い声が廊下に響いた。
どうやら誰かとぶつかったみたいだった。相手は尻餅をついてしまったようなので慌てて駆け寄って声をかけた。
「ごめん……大丈……夫…………か?」
角の向こうに尻餅をついていたのはなんと天使だった。
艶やかな黒髪はまさに俺の好みドストライクのショートカットで、さりげなく飾られたヘアピンがとても似合っている。
リボンの色から俺と同級生だ。
マジかよ……こんな清楚の黒髪ショートの女子がこの学校にいや、この世にいたなんて……!
「いててて……うん。こっちこそごめんね」
お尻をさすりながら、申し訳なさそうに彼女は謝った。
「あ……えっと、これ。よかったら飲んでよ。今日暑いしさ。スゲーウマイと思う」
「……え?いいの……このコーラ君が飲もうとしてたんじゃないの?」
「なに、気にするな!俺にはお汁粉があるからさ!」
「ふふ。今日こんなに暖かいのにお汁粉って……面白いね!」
笑った!?俺のジョークで今笑った!?
天使が微笑んだぞ!
これは攻めてもいいんだよな?いい感じに会話もできてるしいいよな!?
「あのさ、よかったら名前とか」
「オイ!お前ら、絶対逃すんじゃねぇぞ!!!」
「ウッシ!」
野太い声が俺の声をかき消すと、彼女は目をいっぱいの見開き俺の手を掴んで走り出した。
「やば……!君も一緒にきて!」
「え?ちょ、どういう……」
近くの空き教室のロッカーに無理やり押し込まれると、間髪入れずに彼女が入ってくる。
「君、もうちょっと詰めて!」
「こうか?」
「よし!そしたら絶対に物音立てちゃうダメだからね……?」
ち、近く過ぎないコレ!?
俺はロッカーにできる限り体を寄せてみるが、この狭い空間に高校生が2人入るのには相当キツイため、どうしても俺が彼女を抱きしめるような体型になってしまう。
彼女は俺の唇に人差し指を当てると、真剣な眼差しで俺をみつめた。
動いちゃ、ダメだよ。
少し汗ばんでいるその指と、イタズラっぽく笑う彼女が俺の鼓動を促進させる。
落ち着け……。
ヒロインとどんなに密着していても、冷静に余裕を見せつけるのがカッコいいって俺は物語から教わっただろう!
そうだ、だから我慢しろ……いくら俺の理想のヒロイン像をした少女が俺の胸の中にいて、この密着具合に頬を赤らめていたとしてもここは堪えないといけない……!
「見つかったか!?」
またしても廊下で野太い声がする。声の大きさ的にすぐ近くにいるようだ。
顔の角度を変えて俺は溝から外の様子を覗くと、そこに立っていたのはカメラを首にぶら下げたアイツだった。
「すいません!先輩!見失いました!」
なんと、赤井が何やら頭をヘコヘコと鹿威しの様に何度も上げたり下げたりを必死に繰り返していた。
どうしてこの美少女を赤井が追いかけているんだ……?
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