第5話 お前ら本当に高校生なのか?


「ということがあってだな。俺は入部することになった。あとは先生に報告するだけだ」

「は?調子乗んな?」


 眉をハの字ににて俺を威圧的な態度をとってくるのは前の席に座る赤井だ。


 朝というのもあってか少しばかり受け答えにトゲがあるように感じる。


「甘寧さんと2人っきりでラブコメ部を作りましたぁ?なに青春しちゃってるの?誰が許可したのかな?」

「いや、誰も許可してないど。俺の青春なのに許可必要なの?おかしくない?というか、赤井はアニメとかよく見るだろ?だったら理解してくれても」

「アニメをよくみるからこそ憎いんだよ!どうして……人気NO1の甘寧ちゃんを持ってったんだよ……ほんとにひでぇよ……」

「いや、俺だって知らねよ!よくわからんけど噛みつかれたんだよ!あることないこと言われてな!」

「オイお前ら!森川が昨日の放課後甘寧ちゃんに抱きつかれて優しく噛まれたらしいぞ!」

「そっちの噛みつかれたじゃねぇ!?」


 赤井の呼びかけにわらわらと男子生徒が集まってくる。あれ……おかしいな?さっきまで教室にいた男子は俺と赤井だけだった気がするんだが……?


「よし、お前ら……森川を職員室まで運べ。この時間なら男性教員しかいないはずだからな」


 「「承知」」


「ちょ、ちょ―!落ち着けって!お前ら!」


 ジリジリと距離を詰めてくる野郎共に俺も後ずさるしか手段がない。


 いつの間に赤井はこんな勢力を?


 苦し紛れに窓の方を見てみるとベランダの手すりにはロープが結ばれていて、そこから男子生徒が湧水のようにぞろぞろと教室に入ってくる。


 お前ら本当に何者!?


 ロープ一本で3階まで登るなんてこと普通の高校生はできるはずがない……!


 一歩、また一歩とゆっくりと壁のほうに寄せられる。


 右足、左足、右足――――足が壁にぶつかった。


 これ以上はもう下がれない……くそ、ここまでか。


 俺はじゃんけん大会の景品になるしか道はないのか……?青春を追い求めて早2日。夢を捨てなければいけないのだろうか――――


「待ちなさい!野郎共!」


 声のした方を見るとそこに立っていたのは、甘寧ともう1人の女の子だった。


 身長は甘寧と同じくらいで、麗しく照っている銀髪が一層目立っていた。


「森川……お前に話がある」


 アゴで廊下の方をさす銀髪少女。


 はて、どういうことか……身に覚えは全く無いが、甘寧と一緒に登校してきたっぽいし友達だろう。


 とりあえず、俺は前を歩く銀髪少女につい行くことにした。



「あのさ、変態が有紗に変なちょっかい出すのやめてくれる?」


 階段の踊り場まで先頭していた銀髪少女は急に振り返ると俺に威嚇的な口調で告げた。


 有紗、って甘寧のことだろうか。


「は?ちょっかい?むしろ俺の方が甘寧のせいで変態呼ばわれして困ってるんですけど」

「困ってるのはきっと有紗も同じ。変な部活入部させられて迷惑じゃない訳がないもん」


 変な部活とな。


 しかし、それに関しては俺自身自覚が有る為否定できない。


 だって俺の好きなラノベ、『ラブコメ部の日常!』からパクってきたんだもの。


 ラノベに変じゃない部活は無い(個人の超偏った意見です)。


「な、何。俺らの部活をバカにしようっていうのか!?どこの誰だか知らんけど職員室送りにしれやるからな!?」

「どうしてアンタらはすぐに職員室に連れて行きたがるの……普通の先生が仕事してるだけじゃない。あそこ」


 表向きはな。


 ここで真実を教えてやっても良いが、甘寧と仲良さげだったからそのうち耳に挟むだろう。


「ここの先生は怖えんだよ。お前は知らないかもしれないけどな」

「あっそ。あのさ森川はきっと知らないんだろうけど、甘寧にも事情があるの」


 興味ないと言わんばかりに話を切り替えて俺を鋭く睨みつける彼女。


「事情……って」

「事情は事情よ。森川のせいで甘寧はまた傷つくの。私の知らないところで、きっと……」


 さっきまでの敵意に満ちた勢いは全くなくて。今彼女にあるのは胸の痛みを堪えるかのようにそっと目を伏せる弱々しい姿だった。


「あの子、不器用だからさすごく下手に笑うの。私はそんな有紗を見たくない……だからそうなる前に早く」

「無理だな。だって部活作らないと俺も甘寧も箱峰先生にからとてつもない罰を受けなければならない」

「な!?」

「どっちにしても傷つく。甘寧自身そんなのわかってるんじゃないのか?だったら俺は甘寧の選んだ方を信じるぜ」

「なんで?」

「俺のしたいことを素直に受け止めてくれたからな。それを信じてもらったのなら俺も信じるよ。甘寧のことを」

「………………」


 俺が言い終えると銀髪少女は腕を抱き寄せて、何か言いたげに身をもじらせていた。


 ……決まった。


 話が一区切りついたようなので、俺はポケットに手を突っ込みクールに退場しようと銀髪少女に背を向ける。


 今のは完っ壁に決まったぜ!よくアニメなんかでみるやり取りそのまんまである。


 これ絶対あの子落ちたよね!?俺に惚れたよね!?これよこれ!


 しかし、ここでミスをするわけにはいかない。


 最後まで気は抜いちゃダメだ。


 あの子はきっとまだ俺の背中を見るめている。氷を溶かしてしまう程に熱く。


 だから階段すらも優雅に登らなくては――


「ねぇ。何?さっきの。バカじゃないの?」

「う、おぉぉ!?」


 階段を登ったと思ったら壁の横から急に甘寧御本人登場であった。


「ゴメンね?叶恵。コイツが変なやつで」

「うんうん。だい、じょう……ぶ」


 どうやら銀髪少女は叶恵というらしい。


 後ろを振り向くと泣きそうなくらいに顔を真っ赤に染めて、俺たちの方を見上げていた。


 くそ、恥ずかしい……!


 甘寧を信じるとか、なんとか……しかもそれを階段の上から本人に聞かれていたなんて!

 

 しかし、それは叶恵も全く同じで。


 彼女はまるで生まれたての子鹿のように足をプルプルさせ、制服で顔を覆っていた。


「あ、あのさ。叶恵。ゴメンね?あんな剣幕でコイツを呼び出したからさ。気になっちゃって……」

「もう、むり。恥ずかしすぎて死にそう……」

「だ、大丈夫だって!アタシの事あんなに気にかけてくれてたなんて思いもしなかった。本当に嬉しかったよ」

「うう……」

「そうだぜ!叶恵さん!本当に甘寧のことが大好きなんだな!そんな思いが真っ直ぐに伝わってきたよ!」


 俺もすかさずフォローを入れる。


 恥ずかしいのは俺も一緒なのだがこうして言葉を投げてみると自然と自分の中にある恥が薄れていくような気がするのだ。


 しかし、


「う、うう……森川のバカァぁぁぁ!!!!」

「どうして!?」


 叶恵さんは電光石火の勢いで階段を下っていった。


 残された俺と甘寧の間に生まれるぎこちない沈黙。


「ホント、バカばっか……」


 少し浮ついた声に俺は視線を寄せると甘寧の赤髪と頬のコントラストがとても綺麗だった。




 

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