第3話 変態って言った方が変態なんだよ
「それで?どうやって私の匂いを嗅ごうって?」
「い、いや……別に?通りすぎた後………とか?」
「はは。面白いね。君。名前はなんて言うのかな?」
「面白いならもっと笑ってくれよ……その半端なニコニコは余計に怖いぞ」
「誰のせい?」
「すみません」
彼女はその綺麗なお顔に頬杖をつきながらにっこりと微笑んでいる。表情は優しいのに声がすんごく冷たいため本当に笑えない。
「俺の名前は森川愛瑠……です。さっきは本当にすいませんでした」
「はぁ。別に、怒ってないわ。私、ツリ目だからどうしても怒ってるように見えちゃうのよね」
平常であの殺気は出ないだろ、と思ってしまったことは絶対に言わない。
俺はそうなんだね、と笑顔で頷きながら名前は?と返してみた。
「わたしは甘寧有紗……他は特にないわね」
と少し困ったように笑った。
しかしまあ、こうしてみてみると本当に整った顔をしてると思う。
腰の辺りまで伸びている真紅と、猫みたいな薄黄色の大きな瞳は調和が取れていた。
「何よ……さっきからまじまじみちゃって……また変な妄想でもしちゃってるわけ?」
「はぁ?別にしてねぇよ。ただよくみると美人だなぁ、て。甘寧はきっとラベンダーの香りがする」
俺が冗談っぽく言ってみると、甘寧は頭を支えていた手がずれて勢いよく机に直撃した。
オイオイ、大丈夫かよ……。
机に突っ伏したまま動かない甘寧を心配に思い声をかけようと顔を寄せるとガバっと立ち上がって、叫んだ。
「こ、この、変態!何よ、私からラベンダーの香りがするから制服を渡せって!?」
「はぁ!?」
どうしてそういうことを大声で言う!?しかも微妙に事実も混ざってるのがなんともいえない!
ええ……と一瞬にして広がる困惑の波動。
瞬く間に俺は変態扱いである。
箱峰先生すらもドン引きだ。
これは……まずい!
「ち、違うんです先生……これには深い事情が……っと、赤井!今は写真撮影の時間じゃないぜ!」
俺が電光石火の勢いで赤井の手首を拘束するとチッと鋭い舌打ちが聞こえた。
コイツ、敵なのか……!?
危うく有名人になっちゃうところだったぜ。
「先生、本当に違うんです……確かに俺は甘寧さんはいい匂いがするといいました、しかし――――」
「森川くん」
「はい」
「廊下、立ってようか」
「はい」
俺がトボトボと背中を丸めながら廊下へ向かうと教室中は笑いに包まれた。
ちくしょう……俺の青春、もう終わっちまったよ!
変態野郎のあだ名で呼ばれることはすでに不可避。
わずか入学初日にして俺の灰色の高校生活が確定したのであった。
「はは、ザマァないわね!変態はこうなるのが――――」
「甘寧さん」
「はい」
「廊下、行こうか」
「はい」
再び教室が笑いで一杯になる。
どうやらホームルームが終わったら2人で職員室に来いとのこと。
春の廊下はまだちょっとだけ肌寒い。
冷たい空気を飲み込むと、すぐに甘寧が教室から出てきて俺の隣に並んだ。
「バカ」
「お前もな」
確かにそのツリ目は威嚇的かもしれない。でも、その口元も少しだけ吊り上がっていた。
「本当、バカ……」
「お前もな」
もう一度同じようなやりとりを交わして後は2人とも無言だった。
不思議と沈黙の気まずさは感じなかった。
それと窓が空いてるからなのか彼女が隣にいるからか。
微かにラベンダーの香りが鼻腔をくすぐった。
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