第2話 くるなって時に限ってくるよね

 式を終え、教室に戻ってきた俺は自分の席に座った。


 それにしても、まさかあんな変人が同級生に3人もいるなんてな……。


 隣だったということは俺と出席番号は近いはず。


 どうか、俺の近くに来ませんように。


 一人で祈りを捧げていると、前に座っていて男子が振り返って俺と目があった。


「おっす!俺、赤井青!森川……だよな?よろしく」


 ああ、終わった……コイツ必死にサイリウム振ってたやつじゃん……。


「黙れ、近寄んな、前向け」

「何故そこまで言う!?」

「お前が変態だからだよ!」

「どこが!?」

「本気で言ってるなら本当に終わってるぞ!?入学式でサイリウムとか聞いたことないよ!みんなドン引きだよ!」

「な!?俺のどこがドン引きなんだ!?俺はなぁこの学校の女装部に入学してこの学校を変える男なんだよ!」

「知るか!というかこの学校そんな部活あるのかよ!」


 女装部に変えられる学校というのも考えてみると嫌なものであるが。


「俺が変態なのはさておき」

「置くな背負え」

「置いとくんだよ!俺から見たらこのクラスは大当たりなんだが森川はどう思う?」


 赤井から見たら大当たりって……あ。


「確かにイケメンが多い気もする……」

「ちげぇから!どうして俺が男狙いみたいになってるんだよ!」

「だって、するんだろ?女装」

「近いうちにするんだろうけど、今はそこじゃない!みろ、この美少女の多さ!」


 言われて周りを見てみると確かにカワイイ子は多かった。どの子もいい匂いがしそうだ。


「確かに美少女揃いだな。特にあの赤髪の子。彼女はきっといい匂いがするに違いない」

「はは、そうに違いない。森川と今度一緒に嗅いでみ、……よう、か?…………」

「おいおい、どうしたんだよ?急に黙っちゃって。赤髪の子の匂いを堪能し尽くすんだろ?それだったらその子が歩いた後を狙うしかないよなぁ」

「おい、バカ!後ろ!後ろ!」


 必死に叫ぶ赤井のおでこには汗が滲んでいる。


 どうしてそんなに焦っているのだろうか。


 もしかしているのか……後ろに?いや、そんなことあるわけないだろ。だってその赤髪の子はさっきまで教室の隅で友達と楽しそうに会話していたのだから。


「オイオイ、冗談は入部する部活だけに……」

「ねぇ。アンタ達。私の匂いが、なんだって?」


 はひゅ!?


 背中全体に響く謎の衝動。ゾワりと嫌な感覚が込み上げてくる。


 明らかに怒気が混じったその声は、赤井のジョークではないことを示していた。 


 振り返ったら……ヤられる……!


「い、いや、なんでもないよ」

「な訳ないでしょ。こっち向きなさいよ」


 一旦誤魔化してみるも即座に否定され、俺の逃げ場は無くなった。困った俺は赤井にアイコンタクトをとってみるがすでに青ざめた顔で首を横にふるだけのおもちゃと化していた。


 ……っく!俺の後ろには一体どんな光景が広がっているんだ……!ここまでくると逆に気になるぞ!だが振り返ったら殺される気しかしない。


 助けを求めても無駄、しらを切ってもダメ。


 するともう、これしか手がねぇ!


「うるせぇよ!こっちだって今忙しいんだ!そう言うのは後にしてもらおうか!」


 逆ギレである。いや、俺が悪いのはわかっている。


 だが、もし、これでこの場を立ち去ってくれるのならそれはそれでいいんだ。


 祈るような気持ちで赤井を見てみる。


 ああ、だめだこりゃ。


 赤井は白目を剥いて机の上でびくん、びくんと、痙攣していた。その様子はまるで沖に上がった魚みたいだった。


 俺はもう、どうやっても死ぬだろう。


「お前ら席につけー。ホームルームを始める」


 せ、先生!


 どうやら俺らの担任は20代くらいの若い女の先生だった。


 きっとこれでいきておうちにかえれる。


 箱峰先生の話が始まり、背後の重圧が消えたため俺は肩を撫であろした。


 こ、怖かったぁ。あの殺気は女子高生が出していいものではない。


 ハンカチで額の汗を拭っていると横から何かが飛んできて俺の顔に当たった。


 ん?何だ?消しカス?


 けど、赤井はまだ1人でびくんびくんしてるし一体他に誰が……。


 そう思い右を向いてみると。


「よろしくね。変態さん?」


 あ、赤髪さん。席、隣なんすね。


 うん。終わった!


 


 


 

 

 

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