第15話 私が夢で見た建物を彼はプラモデルとして手に持っている
旅行にでも行けばいいじゃないっすか、という男の話を私は聞いていた。
彼と私の間には「モニター越し」のような距離があるようだが、気にしないことにした。彼の方から私は見えていないのかもしれない。
久しぶりに私も行きたいと思っていた地名を彼は口にした。
白浜や長野や鎌倉にでも行ったらええやないっすか。
他にも彼は観光地の名を挙げた。あまり有名でないその地に以前、私も行ったことがある。
海辺の赤い建物が名所らしいのだが、それだけしかない静かな観光地である。私はその人気のない観光地が好きだった。
彼はテレビの中なのか、パソコンモニタ画面の中なのか、映像の中でその名所らしい小型模型を手に持っている。
私はその赤い建物を覚えている。私は何度か夢の中でもその建物を見た記憶がある。
有名ではない観光地の名所プラモデルなどがあるのだなと、私は不思議な気がした。だが、面白い気もする。
彼はテレビの中で、何十分の一かの縮尺模型を両手に持って言っている。
「ね、旅行にでも行ったらええやないっすか」
私が夢で見た建物を、彼が手の中にプラモデルとして持っている。
そういえばまたあの場所に行きたいなと私は思った。
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