第14話 青白い発光体が家々の上に浮かんでいる
よく知らない男が車を運転している。私は助手席に乗っていた。お互い社会人らしく、あたりさわりのない話だけで、あまり喋らなかった。カーナビの音だけ聞こえる。
運転手の彼は関連会社の人らしいが、やけに低姿勢で、顔に笑顔が張りついている。
車は夕方、事務所に戻るところであった。ハンドルを持った彼はカーブの目測を誤ったのか、鉄柱に車をぶつけた。
彼は眉を八の字に下げて怯えたような笑みを浮かべている。ハイエースの前方は顔を殴られたようにへこんでいる。
彼は後で何と釈明するのかと私は他人事のように思ってしまった。
おとな、社会人同士のつきあいというのは機械の連結部分のようであまり面白いことはない。
個人的な感情や本音などというものはいつしか誰も邪魔と隠してしまい、ふと気づくとみんな同じ顔をして、同じことしか言わなかったりする。
私は彼の名前も覚えていないことに気づいた。きっと彼も私のことは個人として認識していないかもしれない。ナントカ社の人、として覚えてるだけかもしれない。
その後、車内で話すこともなく、道なりを何百メートルです、などといったカーナビの音だけ聞こえた。車は夕暮れの住宅地を走っていた。
夕焼けの炎色は薄くなっていた。冷たそうな色が広がっている。
その住宅街は急坂が多かった。
辺りは暗くなり、目測を誤るとまた何かにぶつかるかもしれない。
坂を登り切ったところで、目の前一面にレゴブロックのようにずらりと並ぶ家々が見えた。
闇が迫る薄暗い外灯の中で、住宅地は死んだように静まり返っている。
夜から雨が降ると誰かが言っていた気がする。
ある家の上に青光りするプラズマのようなものが浮かんでいることに気付いた。
私は運転席の彼に教えようとしたが、既に彼も頭上を見上げていた。
ニコラ・テスラの実験室めいた青白い発光体が家の上にまばゆく浮かび、放電めいた血管のような細い光を放っている。
あれは何だ?
私は予想もつかず、ただその物体の妖しく謎めいた姿に目を奪われた。
私は運転席の彼と二人でフロントガラスの向こうを見上げていた。
するとそのプラズマは家屋の頭上から二階の中へとゆっくりと浸透していく。
私は何も考えず、ただその景色を見ていた。
するとしばらくして、青い光の侵入した二階は突然爆発して吹き飛んだ。
炎もなく、風力実験のような風の力だけなのか、二階部分だけが綺麗に吹き飛んでいる。
青光りする球体が家々の向こうに浮かんでいる。
天候の問題なのか、これから降るらしい雨の影響なのか、台風の前兆とかなのか、何が起こっているのか自分には分からない。
私は声を上げようとした。が、静まり返った住宅地は爆風の後も無音で、人がいるのかいないのか、声を出しても何も反応がない気がする。ここに人はいるのだろうか。
青白い発光体は音もなく家々の上に浮かんでいた。
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