第13話 上機嫌なデクスター

 その頃、デクスターは、宿の外でたっぷり深呼吸をしていた。さらに質素ながら賑わいのあるイベラという街の空気を全部に吸い込もうとする勢いで。デクスターは背中から羽を生やして空に飛べた気になっていた。


 「まさか、冒険者になれなかった俺が国の外に出れる日が来るとはな、昨日は何年かぶりに気持ちよく寝れたし、気分爽快だぜっ」


 人目がある前で、デクスターは堂々と独り言を言ってみせた。さらに続ける。


 「今日から俺は冒険者の仲間入りだぜっ!」


 と、勝ち誇っているデクスターの前に、アーサー君が見かけた。ザンクレットの装備している冒険者が、デクスターの胸ぐらを掴みつつ、言葉を吐き捨てるように言った。


 「泥ネズミが、なにか騒音がすると思えば、キサマ、俺のチームのナワバリで幅利かせてんじゃねーよ…、殺すぞ」


 まるで言葉をすぐにでも実行しようというほどの威圧感が、デクスターの口の中の空気を乾かした。声がまともに出そうにない、ヘビに威圧されたネズミのように、恐怖心を抱きながら、言葉を返す。


 「それは…お詫びします、でも、殺さないで…く…ださ……い!」


 ザンクレットの男は恐怖心を隠しきれないデクスターをおもしろがっている。デクスターのその態度が、ザンクレットの男の非情な心を喜ばせる、興味をそそらせる。


 「なんだ?……聞こえなかったな、独り言の時の勢いはどうした?」


 デクスターはいつのまにか、瞳が涙で霞んでいた。視界がぼーっとしている。それでも、助けてもらいたい、一心で命乞いをする。


 「こ、…殺さないでください。殺さないで!」


 なんとも、痛い姿を晒している。周りにはいつのまにか観衆が集まっていた。デクスターの決死の命乞いは今や、宿の外でチェックインを待っていた冒険者たちの暇潰しの、的になっていた。騒ぎが大きくなっているのに気付いた冒険者たちは雪崩のように、宿の中から押し寄せてくる。「そんなに、弱いものイジメがお好みなのか?」とデクスターは困惑していた。


 そこに、アーサー君と、アルフレッドがあらわれた。アーサー君は、「そんな〜」と、思わず一言。アルフレッドは恐怖のあまり、気を失った。そして地面にうつ伏せで突っ伏した。音を立てて倒れるアルフレッドを周りの冒険者たちが抱え上げ、壁にもたれかけさせる。「酷い行いをする冒険者もいれば、親切な冒険者もいるようだな。」と、何やらデクスターは、変に納得した。「大丈夫ですか?」とアルフレッドに駆け寄るアーサー君。


 デクスターをからかうのに、いや、脅すのに飽きたザンクレットの男は、胸ぐらから手を離そうとしたその瞬間、もう一人のアルフレッドが、目覚めた。

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