第8話 理不尽すぎる試練
代表者の案内により参加者たちは移動していた。神の髪と称されていたベールの会場からしばらく、王都中央方面へ位置した、王族管理下の施設。バルゴラと呼ばれる競技場だ。見るからに、競技場というより、荒地感の強い、闘技場だった。まるで裏カジノの一種の賭け事が行われていそうな、血生臭さがあった。
代表者が痰の絡みをとくように咳き込んだ。
「うっおっほん…、んんゔん。」
難しそうな顔をしながら話を続ける。
「あー、コホンッ。これから試練を行うわけだが…、ちなみに君たちは試練とはなにか、誰かに聞いたことはないかな?」
その問いに誰もが視線を落とす。なにも知らないか、知っているうえで黙っているものがほとんどだ。だと思う。なぜなら…知っているだけで極刑となるから。
アルフレッドは無知なので、素直に答えてしまった。
「とても難関という事実は理解しています。」と。
代表者は、アルフレッドが答えたのを受けて、驚きで目を丸くしたが、すぐに心を落ち着けて、答えた。
「……難関、そうだな。ただ、……まあよいだろう。では、試練とは何か、君たちの目で確かめてほしい。それから、棄権したいものは、申し出てくれ。ただその場合は、冒険者でありながらこの国から出れないことを覚悟してほしい。」
すると、代表者と試験官たちは、競技場の中央にあるエレベーター式のリフトの周りに集まるようにと言った。参加者たちは、周りに集まった。
群衆が噂話をはじめた。
「ここさ、たしか…」
「ああ、ここは…」
「……牢屋よね?」
「マジかよ、まさか…」
「囚人とたたかうのかしら?」
代表者が「静かに!」と、群衆を一蹴した。
リフトが下がり始める。
ウイーイーンイーンイーンイー…
しばらくすると、リフトが下のほうで
ガーッ…ガッガッカッ…
と、音がした。最深部まで降りたようだ。参加者たちが下を見下ろすとリフトの上に、豆粒ほどの人と思われる物体が複数乗っているのが見えた。そのうちの一人が上を見上げて参加者たちを威嚇した。
「…テメェらぁぁあああああ…、死神と謳われたこのカグラ様がぁー、相手になってやるからよー…。」
その男はまるで、獲物を欲している肉食獣のように腹をすかして、喉を鳴らしているようだった。
群衆が騒ぐ。
「やばいだろー。」
「俺、チビった。」
「なんなのよ〜、聞いてないわよ〜」
「あたし、帰ろうかなー」
「あんなのと戦えるやつなんて、ひいては、勇者か賢者か、バケモノ級の冒険者じゃなきゃ無理だよなー」
アルフレッドもまさにそう思っていた、のだが。それよりも気になっていたのは、ベールをくぐっても能力が開花しなかったこと。なんの能力もないなか、どう戦えばいいかだけが、不安要素になっていた。
いろいろ考えているうちに、カグラと名乗るやばいやつは他の者と一緒にリフトで上がってきた。リフトは競技場の地面と同じくらいの高さまで上がると
ガックン…グググググッガタンッ…
と、固定された。驚きと恐怖を隠しきれない、参加者たちに代表者はさらに突き落とすようなことを言い渡した。
「試練とは…、ここにいる終身刑で服役している囚人を相手にする…ことである。受けたくないものは去れ!受けるものには最初に言っておこう。注意点というやつだな。囚人か参加者か、どちらかが、死ぬまでやるぞ。」
デクスターが受けなかったそのわけ、それがアルフレッドにはすぐに理解できた。テンペスター家の長男は、なにも迷うことなく受けて合格している。合格とは囚人の命を奪うこと。不合格とは囚人に自分の命を奪われること、ということだ。
すると、アルフレッドは囚人の中に、知った顔がいることに気付いた。
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