第6話 ひとめぼれからはじまる
ぴちょん。水滴が、白い浴槽に落ちる。円形の大きなバスタブ。七色に光ると、ジェットバスに変えて、鈴鹿は嬉しそうにお湯の中で、綺麗なお姉さまの胸を後ろから揉みしだいた。
「お風呂でするなんて…」
夢見心地のお姉さまは、まだ鈴鹿の与える刺激に身をゆだねる。
「初めてを、奪っちゃった♡?」
「あ、う、嘘よ、家ではしてるわ」
鈴鹿は、痩身のお姉さんの体を、全身を添わせるようにぬるりと撫でながら、お湯自体にとろみのあるお風呂の中で、全身をこするように抱き着く。
「あ、…すごい、人肌きもちいい…んん」
「あたしも♡」
「ね、もう入れて」
「なんで?まだいいじゃん」
鈴鹿は、敏感そうな部分に、自分の指先をそっと添わせた。お姉さんが震える。
「だって、わたしなかでしか……あ」
鈴鹿がそれを軽く摘まむので、お姉さんは体をよじって耐える。
「あ、それ…?そこは…いいのよ、そんな…ええ…?痛くなっちゃう」
「なんないよ、男のアレと一緒だって、大きくなるの知ってる?これしながら、胸をこーすると、すごくない?」
「あ!うそ…すごい!!」
ふたりでぬるぬるになりながら、レインボーに光るジャグジーで、はじめてのあれそれを堪能した。
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夕暮れのファミレス。ビニールのオレンジのソファに対面に座る、褐色の肌の美少女は、胸の谷間から、三万円札を出して、目の前の黒髪美人に、白い歯を見せてほほ笑んだ。
「これで美味しいものでもどうぞ、ってさ」
「だから犯罪だっつってんだろ?」
黒髪美人は、腕を組んで、小さな声で唸る。萌果は、逢魔が時に現れるひどいケダモノを前に、はああっとわざとらしいため息をついた。
「今回のは、まじで純愛は無理だかんな」
「えーなんで、また会う約束したのに」
「そんなの、あれでしょ、性欲とカネがたまったら、連絡してくるやつでしょ」
「あーうまいこと言うねエ!萌果」
「うまかねえんだよ!事実だから!」
萌果は言う。
「無理難題すぎるんだよ、毎回毎回。一度でいいから、ひとめぼれでもいいから、触れられないみたいな恋をしてこないかなあ?」
「えー…そんなのどうやって恋ってわかるんだ?」
ケダモノらしい質問を投げかけられて、萌果はいっそ感心してしまう。
「鈴鹿さんはほんと、狂犬つーか野獣つーか。けだものの鑑ですね」
「褒めてねえってことはわかってきたぞ!」
良い笑顔で笑い合って、店員を呼ぶベルを押した。
いつもは「ピンポン」と軽快に鳴り響くベルが、「ぽいんといん」みたいな、ゆるい弦が切れたような間抜けな音がして、萌果と鈴鹿は笑ってしまう。
新しい呼び鈴を持って、店員がやってくる。
あれって充電式なの?とひとしきり盛り上がって、ふたりは夕飯を食べた。
「まあ一応、相手の素性、聞いてやってもいいですよ」
今夜は親に夕飯を食べてこいと言われてお金をもらった萌果は、豪勢にハンバーグプレートを頂いている。
鈴鹿は、シーザーサラダとチキンプレートだ。お気に入り以外、食べない。(人間はとっかえひっかえのくせに)萌果は頭の中で嫌味を言う。
「お、ご機嫌さん。ンとねえ、
「え!急に年上!」
「既婚者だもん」
「はいアウト!慰謝料が発生しました。鈴鹿さん、マジでさようなら!」
「え~夫とはもう冷え切ってるって」
「そういうのが常套手段なんですよ!!!お互いにきちんと制裁を受けてください」
「だって車の中でキスしたら、めちゃめちゃに照れてたし、ラブホのチェックインの仕方もマジでなんも知らなかったし、手触りとか全然こなれてなかったからなあ…あれで夫に構ってもらってるんだとしたら相当ヤバイ」
「上流な人でなくても、ラブホは一生使わない人だっているんですよ」
「そっか、でもすげえ、なんていうか…初めてって感じがすごかったんだよなあ。「これはしたことある」って言いながら、すごい驚いてたり。あ、あと指輪が、まるで自分でご褒美で買うタイプのデザインゴールドリング。まあ結婚指輪に買う人もいるだろうけど…なんか違和感があるつーか、結婚指輪ってもっとシンプルな感じしねえ?自分で好きな指輪付けてるのかな~って思った」
「うむう」
萌果が唸る。
「29歳処女が恥ずかしくて、他の指用の指輪を左手につけて、既婚者ってことにしてる説…」
ふたりで顔を見合わせて、黙る。鈴鹿が、ブレザーのポケットから、サッとスマホを取り出した。
「んじゃ聞いてみる」
「え!」
「えーと、ほんとに結婚してるの?実は処女なんじゃない?初恋とかだったら嬉しいんだけど、送信」
「やめてくださいよ!!ヤったっていう、証拠残しちゃうじゃないですか!!!スクショとられますよ!」
萌果が慌てる。共犯者になりたくない。
「お、来た返事。すげえ早いじゃん」
しかし気になるので、鈴鹿のスマホを覗き込んでしまう。
「なんて書いてありました?」
「えーと、『実はそうなの、仕事にかまけて、ずっと誰とも…』」
「え、続き読んでくださいよ」
「『誰とも、恋をしてこなかったから、鈴鹿ちゃんに出会えて、高校生の時のようにひとめぼれをして、想いをかなえてもらえて、嬉しかった。また、逢えたらうれしいです』」
「え、ちょ…鈴鹿さんこれって、告白じゃないっすか」
「まじか」
萌果が唸る。
「高校生の時のように、って一文が引っかかるんですよね。また鈴鹿さんが誰かの当て馬・・・・・いえ、今回は身代わりになってる予感が…京さんの、初めてにして最期の恋が高校時代で…鈴鹿さんに似ている子で…」
「おいやめろよ」
「あれ、やめていいんです?」
萌果が、言うと、鈴鹿は「にへ」とだらしなく笑った。
「うーん、うん、ちょっと、京の恋を、続けてみる」
「へえ、そう、そうですか」
ケダモノが、いつものふざけた顔じゃなく、普通の女の子のような顔をしてほほ笑むので、萌果は驚いた。
「もしも純愛になったら、また話聞いてよ」
「悪くないですね」
笑顔で言いながら、萌果はなぜか、チクリと胸が痛んだ。
(は?心筋梗塞かな?)
とりあえず今日は、早く寝ようと思った。
京
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