第5話 スマホからはじまる
「明かり消して」
黒いリクルートスーツの下に純白の下着を付けてて「逆にエロイ」と鈴鹿が唸る。
メーカー名まで当てると、詳しいのねと褒められたので、鈴鹿はお姉さんの期待通り、ラブホの明かりのつまみをグイーっと回して、紫ピンクな間接照明までもっていってあげた。気を抜くとパーティナイトのような照明になってしまうので、良い所で終わる。
「まだ、明るくてはずかしい」
お姉さんはモジモジとしているが、触る前から下着が濡れそぼっている。
「期待してるくせに♡」
鈴鹿はそういうと、自分の制服のシャツの前を外して、ネクタイを付けたまま、ブラを外すとポロリとすべてを露わにして、お姉さんに胸を揉ませる。
「わ、大きいのね」
「緊張ほぐれる?パンツもぬごーか?」
「うん…すごい…いつも、戻りたいって思って見てる制服姿が、こんなふうになっちゃうなんて…いけない子ね」
「フフ、興奮する? お姉さんも大きくて、か~わいい」
「…就活の時は胸マジ邪魔。サラシ巻いたほうがいいよ、ほんと、セクハラしかされないから、この白下着も会社指定だもん、うっざいよね」
「まじか、きっついね」
お姉さんの胸の先端をなめながら、鈴鹿はお姉さんの愚痴を聞く。濡れた下着の上からも、わかるほど浮き上がっているそれを、指先でソッとしごくと、お姉さんの愚痴が止まり、甘い声がこぼれだす。
「あっあ…あ」
お姉さんが高い声を喉の奥からだしながら、ゆるゆると首を振って悶える。もう自分で、準備が完了しているようだったので、最小限にふわふわと、羽のように撫でる。ものの数分でひとりでイッてしまい、ビクビクと震える体を見守ってから、ゆっくりと下着をはぎ、いつもの倍の時間をかけて、期待しているそこに、指を差し入れた。
「愚痴はその辺にして、たのしもうね」
鈴鹿は、悶える様子を、ニコニコ眺めた。
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「んで、目が覚めたら1万5千652円と1万円入りのSuicaが置いてあったんだよね、帰れたかな?お財布の中身ぜんぶおいてったのかな??違うよね??」
「犯罪なんだけどよ………就活はまじ、ストレスたまるだろうし、まあ仕方ないかって気持ちになっちゃう……!お疲れ様です……」
「あたし以外にはけっこ優しいよね、萌果って」
いつものファミレスで、萌果は、当たり前だと思いながら、いつものオレンジジュースを一口飲んで、薄いことに気付いた。
「あ~、交換してくる!」
「液体、足りない時あるよな」
「ん~~すみませ~~ん」
店員さんに報告して、オレンジジュースを入れてもらって、ソファー席に戻って一口飲んで、いつもの味を感じて、はあと一息つく。
「で、また名前も知らねえ、就活おねーさんと、純愛にしようとしてんの?」
萌果は、鈴鹿のような悪態で、鈴鹿に問いかけた。
「名前はねえ、
「学習してんじゃん…学習できるタイプのケダモノかよ、RPGで遭いたくねえ…!」
「ありがとう!」
鈴鹿は褒められたのかと思って、良い笑顔でお礼を言う。
「就活生と、どうやって知り合うわけ?」
「んとね、そこの珈琲屋で、スマホが落ちてたの」
「え、そんな、こえー…!」
萌果は自分のピンク色のケースに入ったスマートフォンを抱きしめた。
鈴鹿が、手に取ろうとした瞬間にスマホが鳴ったので、きょろきょろと周りを見回したが、店長がスっと手を差し出して、取っていいという仕草をしたので、鈴鹿が対応した。
「見てもいないのに、ペコペコ頭下げてるのが見えてさ!実際会いに行ったら、マジで頭下げてて、なんでもお礼します!っていうから、ラブホ行ってもらったんだよね。すげえストレスたまってたから、ヤバい!って言いながらめちゃ盛り上がったよ、うちのOGで、女初めてだったんだって!」
「ん~~早いんだよなあ、出会いからがさあ」
「なにが望みなんだよ!」
萌果は言われて、指を折りながら、言う。
「スマホ拾う、出会う、一旦そこで終了。後日、一週間は欲しい!鈴鹿さんが通うコーヒーショップで再会、「あ、あのときの!ありがとうございます、今日は私が奢りますね!」そっから、お互いに逢いたくて毎日ショップに行く!常連になって、いつもお話しするんだけど、静かなコーヒーショップだったから、外にでましょうよ、ってんで
ふたりで、ようやく外に出るんですよ、公園とかに。ここまで一か月は欲しい!」
「公園でヤルのか」
「まだだわ、ばか!ケダモノ!!」
全然関係ないが、女の子の物まねをする萌果の声が、ものすごい可愛かったな、と鈴鹿は思いながら、紙ナプキンで亀を折っていた。
「で、いつもは行かないような公園で待ち合わせするようになって、お弁当などを一緒に食べる。──ここまでで一か月欲しいかなあ。鈴鹿さんも増村さんと素敵な時間を過ごすんでね。増村さんも、就活の疲れが取れて、鈴鹿さんはどうしてわたしにこんなによくしてくれるんだろう?とか、就活生じゃなくて、高3と高1として鈴鹿さんと出会ってたらな、とか考えながらも、でも、今であったことが、ふたりの出会いは、きっと特別なものになったのかなって思うようになっていくんです」
「ふんふん」
鈴鹿はあまり聞いていないような顔をしているが、萌果はそのまま続けた。
「失敗続きで、喧嘩する日もあるでしょう、でも鈴鹿さんはその、太陽のような愛嬌のあるやさしさで、いつも朗らかに包んでくれます。
ある日、増村さんが泣きながら、鈴鹿さんの胸に飛び込んでくるんです。内定とれた!って。嬉しくて一緒に喜んで、鈴鹿さんも思わずないてしまいます。
鈴鹿さんも、すごい応援していたんでしょうね、実は、高校で出会っていた名前も知らない片思いの相手とかどうです?スマホ拾っただけの関係にしたくない!みたいな?
増村さんの手助けになるような、なにかを…そうですね、愛情料理とか?
逢う時のお弁当は、鈴鹿さんが作ることにしましょう」
「過去に戻らなきゃじゃん!!」
鈴鹿は爆笑して、ファミレスのソファーに倒れる。
「あ、でもねえ、あたしご飯は上手いぞ!岸辺家の飯担当してるし」
ガバッと起き上がって、自分を指さしてアピールする。子どものようだ。
「へえ、見かけによらないですね!!」
「こんなに愛らしい見かけしてんじゃんか?!萌果も今、太陽のような愛嬌とか言ってただろ、いかにも作れる顔してるじゃん!?」
萌香は、顔の前をくるくると指さす鈴鹿をみやる。乳を丸出しにして、工業高校のブレザーを着崩している鈴鹿を見て、スンとした顔を見せて、同意も否定もしなかった。新しい、小さなネックレスが谷間に光っていたので、「それかわいいですね」「だろー♡」をした。
「それで、──初めて増村さんのお家に呼ばれて、鈴鹿さんのお弁当ではなく、出来立てのごはんを初めて頂いて、ふたりで内定をお祝いします。そして初めてのキス!就職してから、鈴鹿さんも未成年じゃなくなってから、同棲して……」
夢見るように語ってから、すうっと萌果の情熱的な口調は無くなり一瞬で興味を失う。
「それで、お姉さんが会社に慣れて、一年半後くらいじゃないっすか?体の関係は!」
「なっげええええ……!!!」
ばんばんと机をたたいて鈴鹿は大笑いする。
「あ~、まあでも、そういうココロのふれあい??した後の、昨日のアレだと思うと、興奮が倍になるなぁ、そういうことかぁ」
ひとりごとのように言って、作ったばかりのテントウムシの折り紙をばらす。鈴鹿の手の動きを見ながら、萌果は、自分の妄想を聞いてもらえることには、多少の感謝はしていた。
(この狂犬には、必要ないんだろうな、そういうまどろっこしい興奮は)
と、深いため息をついた。
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