ひとりぼっちの猫

羽弦トリス

ひとりぼっちの猫

実家には4歳になる雑種のメス猫のモルがいた。避妊手術は受けている。

父親が仕事から帰って来る時間になると、玄関の上がりかまちに座って待っていた。

車のエンジン音で分かるのだろう。

モルは人懐っこく、近所の人気ものであった。

モルは毎晩父親と一緒の布団に寝ていた。

実家は兼業農家なので、ネズミが出やすいので猫を飼っているのだ。

田舎はだいたいそうだ。


ある日、父が起きると枕元に、ネズミの大腿部が置いてあった。大腿部は筋肉の塊であり一番美味しいところだ。

モルは父に美味しいところを食べさせようとしたのだ。

もちろん、モルの事を叱る訳ではない。

「モル、ありがとう。次もネズミを捕まえてね」と、頭を撫でる

それから、数年後、父は事故でこの世を去った。


だが、モルには理解出来ない。時間になると上がり框で父の帰りを待つ。帰って来ないのを理解するとニャーニャー鳴きながら部屋中を探す。寝室を開けろと扉を爪で掻く。

そのモルの姿を見た、家族は涙した。

それから実家の土地を売り、他人が家を建て帰る事になった。

新居にモルを連れて行こうとしたが、逃げて捕まらなかった。

近所のお宅が世話しているらしい。


実家、解体の日。

モルは高台に座り実家が取り壊される様子をいつまでも眺めていたらしい。

これは、近所のおばさんから聞いた話しである。

みんなの愛する、猫のモル。

今は何を思って生きているんだろうか?

不憫ふびんでならない。

ごめんね、モル。君はここに住み続けたかったんだね。


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ひとりぼっちの猫 羽弦トリス @September-0919

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