その6
第七王国は、大混乱の最中だった。
「クソッ、こりゃ一体どうなってんだ」
王都センダイで革命軍と戦闘している王国軍兵士の女が叫ぶ。国王の演説後、なぜか捕縛された革命軍たちが一斉に各地で再び革命を起こし、戦闘が始まった。女が駐屯していたここ、アオバ行政区でも激しい戦闘が行われている。
ただの戦闘であれば、女は動揺しなかっただろう。仮にも女は王国軍の正規兵だ。突発的な事態にも対応できるように常日頃から軍で訓練を受けている。それにも関わらずここまで混乱しているのは、状況の複雑さに原因があった。
「や、止めてくれ‼ 俺は戦いたくないッ‼」
「身体が勝手に動いているんだ‼ 俺の意思じゃない‼」
兵士ではない一般市民が、権能を使いながら迫りくる革命軍に突進していた。奇妙なことに市民たちは皆、言動が一致しておらず、嫌々戦闘に参加しているといった様子だった。
「クソッ‼ 義勇兵とかじゃないんならこっちは避難勧告出さないといけない立場なんだぞ‼ ありゃどういう対応すりゃいいんだ‼」
紛争や戦争において一般市民が義勇兵になることは珍しくない。国や地域、戦況にもよるが、正規軍が義勇兵と協力することもある。しかし義勇兵のように戦う意思がなければ、軍は市民に対して避難を要請する必要がある。これは第七王国でも同じだが、この状況下ではどちらとも判断がつかなかった。
しかし、女を悩ませていたのはそれだけではなかった。
女の隣にいた二人の兵士が突如、革命軍に向かって突進する。
「オイ待て‼ 命令無視をするな‼」
軍紀違反をする兵士たちをとがめるも、女の声は届かない。
「国王陛下万歳‼」
「第七王国に栄光あれ‼」
兵士たちは声高にそう叫ぶと、自爆にも等しい攻撃を革命軍に仕掛ける。しかしそんな兵士たちを革命軍は殺さず、様々な方法で生きたまま捕縛していた。
「またかよッ!」
女は似たような光景を、少なくとも三回はこの戦場で見ていた。狂信的な兵士たちの自殺に等しい攻撃を、殺さずに無力化する革命軍。兵士たちだけではなく、言動が噛み合っていない一般市民もなるべく殺さずに無力化していた。
「これじゃどっちが正規軍か分かったもんじゃないな……」
あまりにも複雑怪奇な現場に、女は思考がままならなかった。何が起きているのか正確に理解している王国軍の兵士は、恐らくこの場には数えるほどしかいないだろう。
王国軍の士気は、確実に下がっていた。
「――全く、我が王国軍の練度もこの程度か」
すると突如、地鳴りと共に天高くからドスの効いた深みのある声が響いた。
「な、なんだあれはッ⁉」
戦闘中の兵士も、革命軍の隊員も、皆が戦闘を止めて空を見上げる。目の前には、アオバ行政区の高層ビル群をも超える背丈の巨人がそびえたっており、その肩の上には国王である王原シュウゾウが立っていた。
「もうよい」
シュウゾウは何もかも諦めたかのように声をこぼす。
「もうよい。善良な国王のフリなど、もうする必要はない。俺の命令に従わない兵士も、無知な民も、もういらない。いくら俺が民のために言葉を尽くそうとも、奴らは都合の良い話しか受け入れぬ。俺は、この巨人兵と、命令に従う奴隷兵さえいれば十分だ。周りくどいことなどせず、最初からこうしておけばよかったのだ」
シュウゾウは右手を軽く上げ、言葉を紡ぐ。
「巨人兵よ、すべてを薙ぎ払え」
次の瞬間、口を開けた巨人兵が口内にまばゆい光を集め、強烈なエネルギー砲を打ち出した。
「なっ……」
誰もかれもが、絶句する。エネルギー砲の直撃した場所が、まるでそこには最初から何もなかったかのように更地と化した。敵も味方も関係ない。そこにいた人々は、塵も残らず霧散した。
「爽快だな。これだけのものを見ればすべてがどうでもよくなる」
ただ一人、シュウゾウだけが満足そうにエネルギー砲による惨状を見下ろす。
「だが、愚息とその仲間たちよ。貴様らだけは放っておけぬ。俺が覇道を歩む上で、貴様らは最大の障害となり得るだろう。それだけは絶対に許さぬ」
身体の向きを変えて先ほどとは違う方向を向いた巨人兵が、エネルギー砲発射の準備を始める。
「これだけのことをすれば貴様らは黙っておらんだろう。貴様らが隠れていれば、アオバ行政区の全てが消え失せるぞ」
巨人兵の口内で光の点滅が消え、膨大なエネルギーが凝縮する。
「さぁ、俺は逃げも隠れもせぬぞ!」
エネルギー砲が放たれようとした、その時だった。
「――それはこちらのセリフです!」
その言葉と同時に、隕石のように巨大な鉄の塊が巨人兵の前方に現れ、砲撃のような速度で巨人兵の顔面をめがけて発射された。
エネルギー砲と鉄の塊の衝突は避けられなかった。エネルギー砲は鉄の塊の質量と強度に耐えきれず霧散し、エネルギー砲で少し小さくなった鉄の塊がそのまま巨人兵を狙う。
しかし、巨人兵はこれを青白いバリアで軽々と防いだ。鉄の塊はそのまま一直線に落下するが、地面へめり込む前に突如消え失せた。
シュウゾウは一連の光景を眺めた後、目の前にある高層ビルの屋上を見やった。
「ほう、てっきり愚息が出てくると思ったが、来たのはお前の方だったか、氷の小僧よ」
屋上に立っていたのは、上杉高校の制服を着たユウヤだった。
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