その5


「ユウヤ君……‼ ユウヤ君‼」


 突如目の前に現れた想い人の名を、アザミは無我夢中で連呼した。


「アザミ、今までごめんね、ずっと迷惑をかけて」


「そんな……、やっぱり、全部思い出してしまったのね……」


 涙目になるアザミにユウヤは微笑む。


「いいんだ、僕はもう逃げたくない。アザミがこれまで背負ってきた重荷を、今度は僕に背負わせてほしい」


「ユウヤ君……」


「ゴホンゴホン」


 感極まって見つめ合う二人だが、わざとらしい咳払いが近くで鳴った。


「あ~、お二人さん、感動の再会のところ申し訳ないんだが、まずは目の前のことに集中してほしい」


 カツヤが苦笑いしながら氷山を指さすと、アザミとユウヤは顔を真っ赤にしながらそちらを向いた。


「さすがに、このレベルの攻撃だと氷山も限界だね」


 先ほどユウヤが作り出した氷山は、エネルギー砲の熱でほとんど解けてしまっていた。氷山が消えたことで視界が広がり、バリアで守られたシュウゾウと柏木が再び姿を現す。


「ふむ、貴様がテツヒロを追い詰めた一級の氷系権能使いか。まさかこの攻撃を防ぐとは……。だが、二発目はどうかな?」


 国王がそう言うと、巨人兵の口が大きく開いた。


「なっ、あのレベルのを連発出来るのかよッ⁉」


 カツヤが驚きで声を上げるが、ユウヤは冷静だった。


「ノゾミさん、ここにいるみんなをテレポートで避難させることは出来る?」


「はい、可能です」


 ユウヤの声に、後ろで控えていたノゾミが返答する。


「ですが、大人数となると長距離は不可能です。短距離の……、そうですね、具体的にはアオバヤマの麓に降りるくらいであれば可能かと」


「了解。あの攻撃は僕が防ぐから、僕が氷山を出した瞬間に僕とみんなを一時避難させて」


「承りました」


 ユウヤはすぐさま右手を前に突き出し、権能を発動すべく準備を始める、その隙に、カツヤたち革命軍とアザミは、ノゾミの側に集まった。


「ウワァアゥア」


 巨人兵がなんとも言えないうめき声をあげる。それと同時に、巨人兵の口内で太陽のようなまばゆい光が一気に凝縮された。


「させるか‼」


 右手の側に影のような灰色の手が出現したユウヤは、エネルギー砲に耐えられるだけの巨大な氷山を先ほどよりも分厚く生み出した。


 刹那、エネルギー砲が氷山に激突する。しかしエネルギー砲も先ほどより威力が高く、見る見るうちに氷山が溶け出した。


「成宮様! 今の内に!」


 ノゾミに向かってユウヤが走り出す。


「ノゾミ、今よ!」


 無事にユウヤが間に合い、アザミの掛け声でテレポートしようとした直後だった。




「成宮ユウヤァァァ‼」




 ユウヤたちの後方で、叫び声がした。


 声に驚いて後方を見やると、そこにはかつてユウヤが倒した貴族の大谷テツヒロがボロボロの姿で立っていた。


「キサマァァァァァァァァァァ‼ 私の、‼」


 みっともなく騒ぐテツヒロを、ユウヤは険しい表情で見るだけだった。


 ノゾミが権能を発動し、ユウヤたちはその場から消え去る。しかし、エネルギー砲を食い止めていた氷山が瓦解し、直線上にいたテツヒロへ直撃した。


「キサマ、キサマ、キサマァァァァァァァァァァ‼」


 テツヒロの叫びは、エネルギー砲の轟音にかき消され、誰も聞くことはなかった。


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