その12
「な、なんで……?」
爆発を聞いて急いで駆けつけたアザミは、目の前の惨状に自分の目を疑った。
燃え盛る炎、凍てつく氷塊、粉々になった成宮邸、そのすべてが、現実のものであるとは信じられなかった。
まるで権能を無茶苦茶に使った戦場かのような有様に唖然とするアザミだが、皆の安否を確認するために意を決して成宮邸の庭に入る。
「そ、そんな……!?」
アザミはあまりの惨状に愕然とし、手に持っていた二匹のぬいぐるみを地べたに落とした。すでに殺された見知らぬ男が二人、燃え盛る何かの塊と炭、意識が無く動かないユウヤ、そして、腹部から多量の血を流す母。控えめに言って、地獄だった。
「アザ……ミ……?」
「お母さん⁉」
血を流し続けている母が何とかひねり出す小さな声に気づき、急いで駆け寄る。
「お母さん‼ お母さん‼」
必死に母を呼ぶが、もはや意識を失う寸前だった。
「アザミ……、私はもう、これ以上もたない……。成宮さんたちも……、もう……。でも、ユウヤ君は、気を失っているだけ。大丈夫よ……」
「無理してしゃべらなくて良いから‼ い、いま救急車を――」
ポケットからスマホを取り出そうとするアザミの腕を、母は弱々しい力で止める。
「それより、わ、私の記憶を……、読みなさい……。ここで何が起きたのか……、そして、私たちが何をしてしまったのか……、あなたは、知らなければならないの……」
「な、なにを言っているの、お母さん……?」
最期の力を振り絞るように、瞳から大粒の涙を流しながら声を出す。
「ごめんなさい。成宮さん……、巻き込んで、ごめんなさい。ごめんなさい……。アザミも……、ごめんね……。こんな、重荷を背負わせて、ごめんね……」
そのまま母は、動かなくなった。
「そんな、お母さん‼ おかぁさん‼」
アザミの叫びが、空しく響き渡る。その様子を見る者は、二匹のクマのぬいぐるみたちしかいなかった。
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