その9
「結局待ちぼうけになっちゃった」
アザミは人のにぎわう街中を歩きながら、一人苦笑いする。
ゆっくりと向かったので結局お店には開店時刻の九時に到着したが、予約の品が郵送で店舗に届くのは九時半と店員に言われ、仕方が無くその辺で時間をつぶしてから受け取ることとなった。
「ユウヤ君、喜んでくれたらいいのだけれど……」
アザミは抱きかかえた二つのぬいぐるみを見る。赤と青のリボンが付いた二体のクマのぬいぐるみは、愛らしい雰囲気を醸し出している。
年頃の男の子にあげるには少々ファンシーさが強すぎるプレゼントだが、これにはアザミなりの理由があった。
「私が赤い方を持って、ユウヤ君が青い方を持つ。二人でお揃い……」
アザミはペアグッズにあこがれがあった。街中でいちゃつくカップルたちのペアコーデやらペアリングやらを見るたびに、いつも「いいなぁ」と羨ましく思っていた。しかし直接ペア物を渡すのはさすがに恥ずかしかったので、今回の誕生日プレゼントを口実にペアグッズの片割れをちゃっかり渡す作戦を立てていた。
なお、ネックレスのようなおしゃれな小物も考えていたが、貰っているお小遣いでは足りなかったのでぬいぐるみとなった。普通に考えれば男の子のプレゼントにクマのぬいぐるみは微妙だが、そこに思い至れないあたりがまだ小学生だった。
「とにかく、今日は人も多いしさっさと帰らなきゃ」
人ごみをかき分けて家の方へ進む。今日はアザミにとってはユウヤの誕生日と二人が出会った日だが、世間一般では「日本連合王国建国記念日」と認識されている。祝日とあっていつもより人の数が多く、皆どこか浮かれている。
なんとか街の中心部を抜け、自宅のある丘の近くまで近づくと、ポケットからスマホを取り出した。待ち受け画面には午前十時との表示が写る。
「ちょっと遅くなっちゃったかな。お母さんに連絡しないと」
アザミがメッセージアプリを開き、母に電話しようとした、その時だった。
――丘の上で、大きな爆発音が鳴った。
「えっ」
あまりに突然の出来事に、アザミは呆然とする。
「ば、爆発⁉ なんで、待って、そこは――」
爆発の起こった場所、そこは、間違いなくアザミとユウヤたちが住む家だった。
「お、お母さん‼ ユウヤ君‼」
アザミは無我夢中で走り出した。
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