その5


 公園から十分に離れると、ユウヤは大きく息を吐き、近くにあったブロック塀に体を預けた。


「あぁ、本当に間に合ってよかった。大丈夫? 怪我してない?」


 ユウヤは震えながら目の前の少女に声をかけた。先ほどまでの凄まじい迫力との落差に、アザミは目を丸くした。


「アザミちゃんを探し回っていたらなんか公園の方で騒ぎが聞こえて、駆け付けてみたらあのおばさんが変なこと言ってて、それで、それで……。あぁ、とにかく、本当に、本当に、間に合ってよかった」


 心底安心したように言葉をひねり出すユウヤを、アザミは直視できずに目をそらした。


「別に、大丈夫よ。あれくらい、別に……」


 嘘だった。自分に向けられた明確な敵意が、心に思っているだけでなく自分に鋭く向かい、暴力という形で自分の身を襲おうとしていたことに、アザミは恐怖で身体の芯から凍えてしまっていた。


 なんとか気丈にふるまおうとするアザミだったが、言葉とは裏腹に目じりが赤くなっていることにユウヤはすぐ気づき、悔しさで心が締め付けられた。


「今度から、どんなに帰りが遅くなってもちゃんと僕と一緒に帰ろう。もう絶対に、こんな目に合わせないから」


 ユウヤはそっとアザミを抱きしめ、優しく小さい子供を諭すように頭を撫でた。


「僕が、守って見せるから」


 その一言で、アザミの中にあった恐怖がじんわりと消えた。代わりにユウヤの温かさが全身を包み込み、どうしよもないほど安心感を覚えた。


「(あぁ、この人は、どんなに自分が危険な目に遭っても、私を助けてくれるんだ)」


 アザミは人の善意というものを信じていない。人は必ず、余裕がなくなれば裏切るものだと、今までの経験からそう思い込んでいた。


 だが、ユウヤは違う。ユウヤがあんなに強いのは知らなかったが、それでも自身が五級である以上、自分に危害が及ぶ可能性もあったはずだ。それなのに、ユウヤはそんなリスクなど無視して助けてくれた。アザミにとってそれは、人生で初めて得た本物の安心感であった。


「う……、うぅ……、う……」


 感情の波が爆発する。


 アザミはついに耐えきれなくなり、大粒の涙を出した。


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