その3


「さて、我が愚鈍な息子よ。俺は一つ、お前の間違いを指摘せねばならぬ。――お前は先ほど、そこの小娘を断罪の剣で刺す計画を立てたと話したが、それは全く意味のない行為だ」


「……何?」


 カツヤはシュウゾウを睨みつける。しかしシュウゾウは無視して言葉を続けた。


「お前たち革命軍はそもそも前提を間違っている。お前たちが王国から盗み出した情報通り、断罪の剣で刺された者が起こした権能による現象は、刺された瞬間にこの世から消える。だが、そもそもその小娘は、


「……は?」


 目の前の男が何を言っているのか分からず、カツヤは声が漏れる。


「お前たちは小娘が洗脳を行っていると考えていたようだが……、まぁ、そう勘違いするのは無理もない。俺は自分の子供にすら本当の権能を隠していたからな。――俺の本当の権能は「契約による奴隷化」だ。双方の合意を得れば、契約者を奴隷にすることが出来る。権能の等級が上がるというのは、奴隷の基本スペックが向上するという、まぁ言わば副作用のようなものだ。故に、小娘をどうにかしたところで、奴隷兵が解放されることはない」


「な、ならなんで奴隷兵は四条アザミが貴族になった四年前から突如現れた? 俺たち革命軍は、強化の儀に必ず四条アザミが同席しているのは確認しているぞ」


「俺の真の権能を知らないが故の勘違いだな。俺の権能は、人に強制することは出来ても、意識まで縛ることは出来ない。人を殺せと命令すれば身体が勝手に動くが、命令に抗おうとしてしまう。やはり、心の底からの行動と無理やり命令されたものとでは、兵士としての質が全然違う。だから小娘に洗脳を使わせ、心の方も縛っていたに過ぎない。もっとも、今回の革命で予想外にも一級が大きく減ってしまったのでな、聖戦には洗脳をかけていない四年以上前の奴隷兵も参加するよう、先ほど演説で命令を出した」


 カツヤは突如語られた真実に混乱するが、決して荒唐無稽な話ではないと思った。


「(つまり、成宮が倒した笹葉が本来の使い方をしていたのか⁉ 四条アザミが笹葉用に意識を残した奴隷兵を作っていたのではなく、意識の残った状態の奴隷兵が何の手も加えていない本来の姿だった……⁉)」

 何とか思考をまとめるカツヤだったが、驚愕の真実はこれだけにとどまらない。


「そも、お前たちの計画はある程度知っていた。俺が断罪の剣で権能をはく奪したあの男だが、自殺の方法が中途半端すぎる。死体なんぞ残しては、そこの小娘に記憶を抜き取られるに決まっておろう。さすがにその男はお前たちの本当の身分を知らなかったが故、我が息子が革命軍の首領であったことはこの今瞬間まで分からなかったがな。――ともかく、ある程度組織図が分かったおかげで、革命軍の進軍予定は簡単に手に入った。俺はお前たちの計画に便乗して、第一と第二に攻め入る口実を作ったというわけだ」


「……」


 次々と明らかになる衝撃の事実に、カツヤは何も言えず絶望で俯いた。


「まぁ、つまりだ、お前たちが俺を殺して断罪の剣でその娘を殺そうが何をしようが、奴隷兵が正気に戻ることなどない。お前たちの計画は、全くもって無意味だったということだ。――あぁいや、全くもってではないか。第一と第二への聖戦の口実として、俺の役には立ったぞ」


 シュウゾウは満足そうに言い終えると、ゆったりと頬杖をついた。


「さて、愚鈍な息子とのおしゃべりはこれでおしまいだ。これからお前は、そこの小娘の権能で一切の記憶を消され、従順で俺の跡を継ぐにふさわしい王子として生まれ変わる。次に会う時は、また昔のように俺を「お父様」と呼ぶ息子に戻っていることだろうな。――さらばだ、我が息子よ」


 シュウゾウはアザミに目配せをする。アザミはうずくまっているカツヤへ近づき、長い髪をふわっとなびかせながら耳元へ口を寄せる。


『――――』


 その瞬間、カツヤはそのまま地面に倒れ込んだ。


「フ、フハハハハハハ! これですべての準備が整った! ついに、ついに俺が世界を統べる時がたのだ‼」


 玉座から立ち上がり、大声で笑う。隣に控える柏木も、剣を携える甲冑兵たちも、そしてシュウゾウ自身も、――この場にいるすべての者が、これから歴史の変わる瞬間に立ち会うのだと確信した。



 



 直後、甲冑兵の持つ剣が数本、ひとりでにシュウゾウの元へ勢いよく飛んでいった。


「陛下、失礼いたします」


 後ろに控える柏木が腰に携えた二本の剣を引き抜き、飛んできた剣をすべて払いのける。


 驚いたシュウゾウがとっさに前方を見下ろすと、縛っていた鎖を権能の力で粉々に砕き、力強く立ち上がるカツヤの姿が目に入った。その横で魅惑的な笑みを浮かべる、アザミの姿と一緒に。


 驚きを隠せないシュウゾウに、カツヤはニヤリと笑った。


「さぁ、本当の革命はここからだぜ?」


 最後の戦いが、今、始まろうとしていた。


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