第五章 月光カツヤは真相を知る

その1


王歴二一○○年 六月十三日


 王都センダイ、アオバ行政区。革命による被害で王都のシンボルともいえる高層ビル群は多大な被害を受け、ガレキがあちこちに散らばっていた。


 街中には家を失った大勢の市民が行き場をなくし彷徨っており、皆遠い目をしていた。そんな中、交差点に一際大きくそびえたつビルの大型ディスプレイに突如映像が映る。


『第七王国王都民の皆様へ。国王陛下よりお言葉を頂戴致します』


 交差点にいた人々は「なんだなんだ」と言いながら頭上を見上げる。ディスプレイには、サングラスに柄物のワイシャツを着た男が立っていた。


『第七王国王国民に告げる。この革命は、第一王国と第二王国によって引き起こされたものである!』


 迫力のある声色に、誰もがディスプレイを凝視する。


『突然のことで理解できない者もいるだろうが、聞いてほしい。事の発端は第二王国にある。奴らはかつての第八王国だけに飽き足らず、我らが第七王国へも聖戦を仕掛けようとした! だが、第七の堅牢な防衛に手を出すことが出来ず、直接的な攻撃は仕掛けてこなかった。当然であろう。我が王国軍は、そのような卑劣には屈せぬ! しかし、こともあろうにそんな第二王国に第一王国が手を貸した! 奴らは第二の奸計に乗り、我が王国へスパイを派遣し、革命を扇動した! 卑劣にも革命軍の苛烈な占領のせいで、多くの民が傷ついた!』


 王の言葉に、人々は様々な反応を示した。「第一の奴らが俺たちの王国を……!」「許せねぇ!」「俺は元々おかしいと思ってたんだ。だって第二からの避難民を一切受け入れていなかったじゃないか!」「今思えば第二とグルだったんだ!」といった肯定的な声から、「第二はともかくなんで第一が?」「革命軍は占領中、私たちにひどいことはしていなかった。むしろ王国軍の方が酷かった」「革命軍の話じゃ王国は奴隷兵とかいうとんでもない事をやっていたんだろ!」といった否定的な意見、更には「いや、これは日本列島の外にある外国が扇動した革命だ!」といった謎の陰謀論まで、実に様々だ。


 革命軍は占領中に略奪等は行っておらず、むしろ食糧配給や革命に巻き込まれた人々の救出や治療を行っていた。そういった行為を見ていた市民の影響もあり、思いのほか革命軍に寛容的な人が多い。だが、そんな中で一人、スーツを着たサラリーマン風の男が険しい表情を浮かべていた。


「なんで革命軍を支持する声があるんだ。だいたい、奴隷兵なんて話、信じられるか」


 男は十五年ほど前に強化の儀を受けて以降、国王に心酔していた。持病のせいで王国軍や憲兵隊に入ることはなかったが、それでも会社で真面目に働き、税を納めることで王に忠誠を示した。そんな男からすれば、革命軍が流した市井に流した「奴隷兵」などという荒唐無稽な話を信じている人たちこそ、軽蔑の対象だった。


「国王様のおっしゃることが正しい。他のたわごとなど、信じるものか」


 男は革命軍に対する肯定的な意見をすべて無視し、ディスプレイを見つめる。

『我はこのような卑劣を許しておけぬ。故に、今回の事件を起こした第一王国と第二王国に対し、聖戦を行う! 第七王国の選ばれし民よ、我に力を貸せ! ともに戦い、正義を成し遂げるのだッ‼』


 国王は凄まじい音量で叫ぶのと同時に右手を軽く上げ、スッと振り下ろした。国王を熱烈に支持している市民は、大きな歓声を上げた。


「俺も直接戦うことは出来ないが、何か手助けを……!」


 男がそう決意した、直後だった。男の身体が自身の意思と関係なく勝手に動き出した。


「な、なんだこれは……?」


 男は周りを見ると、自分と同じように体が勝手に動いている人が何人かいた。見た感じ二十代以上の人ばかりで、皆一様に困惑していた。


 男は知らない。今、身体が勝手に動いている人は皆、四年以上前に強化の儀を受けた者ばかりだということに。そして、自分が戦場へと向かっていることに。

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