その6
ユウヤが眠りに落ちたその光景を見て、カツヤは全身が震えるのを感じた。
「まずい‼ 全員ッ、今すぐあの女から半径五十メートル以上は離れろ‼」
カツヤの言葉で、その場にいた革命軍全員が走り出す。
「あらあら、そんなに慌てなくてもいいのに」
アザミが優雅に手を頬に当て、悩まし気に革命軍の面々を見つめる。だが、その所作に焦燥は見られない。
『動かないで』
アザミのその言葉を聞いた瞬間、アザミから半径五十メートル以内にいた三人の革命軍隊員が、まるで
「なっ、これは……⁉」
三人のうちの一人が、うめき声を出しながら自身の体に起きた現象に疑問を投げかける。
「さすが、革命軍のリーダーさん。私の権能についても、ちゃんと理解していたのね」
アザミが嬉しそうにカツヤを見る。
「……当たり前だろ。お前の権能で大勢の人がイカレれた奴隷にされているんだ。調査してるっつーの。――半径五十メートル以内にいる任意の人間もしくは全員に、洗脳だろうが記憶改ざんだろうが、精神に関することならなんでも出来る権能だろ。お前みたいな人を何とも思っていないゲスが持っていい力じゃないぜ、それ」
「ゲスだなんて、女の子に失礼よ。それに、この権能って別にそれほど便利じゃないわよ。各王国の国王やその貴族には「王の加護」があるから精神操作できないし、極まれに洗脳も暗示も効きづらい人がいるのよ」
アザミが両頬をぷくっと膨らませて抗議する。その隙にカツヤはしっかりと距離を取る。
「あぁ、距離を取っても無駄よ。――あなたたち、やりなさい」
アザミの一声で物陰に隠れていた王国軍の兵士たちが一斉に出てくる。
「やっぱり隠密系の権能はこういう時便利よねぇ。――安心して、殺しはしないわ。ちゃんと生け捕りにして、国王陛下の前に突き出す予定だから」
兵士たちと革命軍が戦闘となる。
「カツヤ様! 相手方の兵士に、何人か名簿に記載のある人物がいます。彼らは、奴隷兵です!」
宝田は懐から出した小さなこけしを兵士に投げつけて小規模な爆発を起こしつつ、カツヤに告げる。
「チッ、厄介な」
カツヤは思わず悪態をつく。革命軍は奴隷兵にされた人々を救いたくて革命を起こしている。故に、奴隷兵はなるべく殺せない。
「アゲハ、クロハ。どっちでもいい。権能を使ってこの場から離脱し、今すぐ革命軍の応援を呼べ」
カツヤは近くにいたアゲハとクロハに小声で指示を出す。
「ですが、成宮先輩が――」
「ここで俺らがやられちまえば、全部おしまいだ。アイツを助けることすら出来なくなる」
「「――了解です」」
二人が了承すると、権能を使って気配を薄める。
「なぁーんて、逃がすと思っているの?」
後ろから声が聞こえ、アゲハとクロハの二人が振り返ると、そこにはアザミがいた。
『二人とも、眠りなさい』
クロハとアザミは、そのまま床に崩れ落ちて眠った。
「なっ⁉」
カツヤが驚きの声を上げる。アザミの隣には、ノゾミもいた。
「(しまった! こいつは二級のテレポーター! ちょっとやそっと距離を取っただけでは意味なんかねぇのに……!)」
急いで権能を使い、アザミに攻撃を仕掛けようとする。しかし、気が付いた時には遅かった。
『この場にいる革命軍の皆さん。今すぐ戦闘を止めて、跪いてくださ~い』
次の瞬間、革命軍の面々は動きを止め、全員跪いた。
「クソが……、全く動けねぇ」
何とか動こうするも、体はピクリとも動かない。
「無駄よ。私は戦闘を止めてと言ったし、跪いてとも言った。それに逆らうような行為なんて、できないわ」
無様に跪くカツヤを、アザミは見下ろす。
次の瞬間、アザミは真顔でカツヤの顔面を思いっきり蹴り飛ばした。
「グッ……」
カツヤの顔から、血が出る。
「ほーんと、よくもここまでやってくれたわね。計画が台無しよ。それに、ユウヤ君のことだって……」
もう一度、アザミは力のままに、今度はカツヤの腹を蹴り飛ばす。
「でも、もう大丈夫。これですべて解決だわ」
カツヤを蹴り飛ばしてすっきりしたのか、アザミは満面の笑みを浮かべる。
「か、カツヤ……」
突如蚊の鳴くような声が聞こえ、アザミは長椅子の方を見る。すると、権能をかけられたユウヤが弱々しくも必死の形相でカツヤを見ていた。
『【警告:権能が一部正しく作用していません。管理者による修正が必要です】【警告:権能が一部正しく作用していません。管理者による修正が必要です】【警告:権能が一部正しく作用していません。管理者による修正が必要です】【警こkkkkkkkkkk】』
貴族の大谷テツヒロと戦った時と同じように、ユウヤの脳内に機械的な音声が流れる。しかし、あの時とは違って意思のある人間の声はしない。
「あらあら、あれだけ強めに権能をかけたのに」
笑顔のまま、アザミはユウヤに近づく。
「くっ……」
何とか眠気をこらえ、必死に立ち上がろうとするユウヤ。そんな彼を、アザミはそっと抱きしめて優しく頭をなでた。何か花のような気品あふれる香りが、ユウヤの鼻腔を刺激した。
「大丈夫よ、もう何も心配しなくていいの。だから――『眠って』」
ユウヤは今度こそ抗うことが出来ず、再び深い眠りについた。
その日、フクシマ州州都フクシマから反撃の
――数日後、国王は第一王国と第二王国へ、聖戦開始を宣言した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます