その13
白い息を吐きながら、あたりを見渡すユウヤだが、心中は穏やかではない。初めての権能を使った戦闘で、心も体も疲れ切っていた。
「ああ、そうだ。早く三人の手当てをしなきゃ……」
まずは出血の酷いサキに近寄り、脇腹を氷で固めて止血をする。
「すみません、ありがとうございます」
お礼を言われ、「いえいえ、これくらい」と軽く返事をする。サキの治療を終え、今度はクロハの元へ近寄ろうとした、その時だった。
「なるほど、もうすでにここまでセーフティーが外れかけていましたか」
耳慣れない女性の声が響いた。
「だ、誰⁉」
サキが飛び上がろうとするが、脇の痛みで上手く立ち上がれず膝立ち状態になる。
「たしか君は……」
倒れているテツヒロの横にいつのまにか音も無く現れたポニーテールの少女に、ユウヤは見覚えがあった。
「私の名前は財前ノゾミ、アザミ様の側近をしている者です。私のような者の名前を知っていただけているなんて、光栄です」
かつてテレビで見たアザミの隣に控えていたポニーテールの少女が、そこにいた。少女は聖桜高校の制服のスカートを両手でつまみ、恭しく礼をする。
「そう警戒されないでください。私はそこにいる大谷テツヒロ様を回収しに来ただけですので」
ノゾミはそう言うと自身の下に転がっているテツヒロを見下ろす。テツヒロは何か言いたげに口を動かすが、全身が凍傷で麻痺しており、言葉を上手く出せない。
「一級の貴族をここまで追い詰めるとは……、もう時間がありませんね」
「時間……?」
不思議そうな顔をするユウヤだが、ノゾミはさらりと無視をした。
「それはそうと、――先ほど言っていた「権能は決して特別なものなんかじゃない」、という言葉、あれは本心から来るものですか?」
ノゾミはじっと真剣な眼差しでユウヤを見つめる。
「……本心ですけど、それがなにか?」
何をもってそのような質問をするのか分からず、問い返す。
「いえ、そうですか」
ノゾミはどこか納得したようにそう返答をすると、しゃがみこんでテツヒロに触れた。
「それでは、また」
次の瞬間、ノゾミとテツヒロは音も無く消えた。
「何だったんだ、今のは……?」
先ほどまで少女がいた虚空をユウヤは呆然と見つめる。少女は確実に王国の手先であるはずなのに、なぜかユウヤは少女に敵意や警戒心を覚えられずにいた。
少女のことを不思議に思うユウヤだったが、今は治療を優先すべきとすぐに考えを改めてアゲハたちに近寄る。
かくして、ユウヤの戦いは一時幕を下ろした。
その後、ユウヤとカツヤは合流し、無事ナトリ基地を攻略した。
しかし、基地の地下で見つけてしまった,それに、二人は絶句した。
後に詳しい調査を行った情報部隊曰く、
「これは、本当に元は人間なのか?」、と。
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