第四章 敗北は訪れる

その1


 第七王国フクシマ州州都フクシマ。その中心部にある州庁舎の最も豪華な部屋に、第七王国国王は鎮座していた。部屋はアオバヤマ王宮より厳かで質素な内装だが、王を滞在させるにあたっていつもより豪華に飾り付けをしている。


「陛下、ご報告でございます」


 国王の腹心たる貴族の四条アザミが、黒髪をふわふわとなびかせながら恭しく礼をする。


「革命軍は現在、ナトリ市を攻略後にミヤギ州をすぐさま南下。そのままミヤギ州全土を占領下に置いた模様です。部下の報告によりますと、植田ナオキは死亡。大谷テツヒロは凍傷によりひん死の状態でしたが、命に別状はない模様です。ただ、権能をまだ使える状態ではなく、しばらく安静が必要とのことです」


 椅子に座るサングラスをかけた貴人らしくない王は、方眉がピクリと動かす。


「ナトリ基地を落とされるのは想定外だな。あそこにはがある。そのためにわざわざ一級を二人も配置したというのに……。どういうことだ?」


 王がアザミに問う。


「相手方に一級の権能使いが二人もいた模様です。一人は念動力系、もう一人は氷結系でした」


「一級が二人も、だと? ――柏木かしわぎ、王国の戸籍に念動力系と氷結系の一級の者は記載されているか?」


 王の後ろに控えていた執事のような出で立ちの男――柏木が手に持っているタブレットをさらさらと動かす。権能は王国にとって宝だ。厳重に管理するためにも、第七王国に生まれた者は全員、自身の権能と等級を王国に報告する義務を課されている。王国に提出された情報は戸籍に登録され、一定以上の権限を持つ役人ならば自由に閲覧することが出来る。


「念のため確認しましたがおりません。そもそもこの王国にいる貴族以外の一級は全て、監視下に置かれています。おそらくですが、意図的に権能を隠していたのでしょう」


 柏木の報告に王は顎に手を当て、何やら深く考え込む。


「さて、どうしたものか……」


 国王の呟きを聞き、アザミがすかさず提案を出す。


「私にお任せください。当初の計画とは違いますが、革命軍を壊滅させ、王都を解放致します」


 王はアザミの言葉に何一つ表情を変えぬまま、数秒置き、


「良いだろう、やれ」


 重々しく一言を放った。そこには言外に「失敗は許さない」という意味が込められている。


 アザミは礼をすると、王のいる部屋から退出した。




 そのままアザミは基地内にある自身の部屋に戻ると、すぐに携帯を取り出し、何やら連絡を取る。


 数秒後、ノゾミが瞬間移動でアザミの部屋へとやって来た。


「お呼びでしょうか?」


 ノゾミは片膝をついて首を垂れる。


「陛下、態度にはあまり出さなかったけどお怒りよ。ナトリを取られたのが相当痛かったみたい。というわけで、私たちで革命軍を倒しちゃいます」


 ノゾミがじっとアザミを見つめる。


「革命軍を倒すのは承知致しましたが……、革命軍にいる「彼」はどうしますか?」


 彼とは、すなわち、成宮ユウヤのこと。


「……本当に困ったわ。何しろ、彼が権能を取り戻しつつあることが最大の誤算なのよ。全く、戦闘に特化した一級相手に勝ってしまうレベルまで力が回復するなんて。――彼をどうするかなんて、わざわざ言う必要ある?」


 アザミが妖しげに首を傾げる。


「……そうでしたね。仰る必要はないかと。――それでは準備に入りますので、これで」


 ノゾミはそう一言残すと、音も無く消えた。


「待っててね、ユウヤ君」


 アザミは歪んだ、しかし魅惑的な笑みを浮かべる。


「私がいっぱい、い~っぱい、幸せにしてあげるからね」


 少女の呟きは、誰にも聞かれず、部屋の中にだけ響いた。

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