その12
地面に這いつくばるカツヤと、どんどん近づいて来るナオキ。状況は、カツヤの不利を伝えていた。
「やっぱり戦闘系の一級と戦うとこうなるよな……。俺が馬鹿だった」
ナオキはニヤリと笑う。
「おぉ! 降参してくれるか! 安心してほしい、ちゃんと解毒薬はある! 降参すれば治療を施した上で軍へ入隊を認めよう! なに、俺は実力主義だ! 国王様は俺が説得して見せよう!」
喜ぶナオキだが、その実少し異変を感じていた。
「(おかしい。そろそろ毒が効き始めて身動きが取れなくなるはずだ! しゃべるなんてできないはず!)」
ナオキはこの毒による戦法を何度も使っているため、どの程度で効果が出るか体得的に知っている。しかし目の前にいる少年は、明らかに効果が出てもいいくらいの時間なのに、話すことが出来ている。
そもそも、空気中に毒物があるのに、口元を手で押さえないあたり、根本的におかしい。そうナオキが気づいたとき、信じられない光景を目の当たりにする。
カツヤの周りだけ、紫色の毒が全くなかった。
「本当に、馬鹿だったよ。今後に備えて温存しようなんて」
直後、カツヤが立ち上がって左手を肩の位置まで上げた。
「囮を使った奇襲とか力の温存みてぇな、器用な真似はやっぱり出来ねぇ!」
カツヤの右側にあったマンションが、ゴリゴリと嫌な音を立てる。
「なっ⁉ マンションを動かすつもりかい⁉ 二級にそんなこと出来るわけ――」
ナオキの言葉に、カツヤは不敵に笑う。
「誰が、いつ、二級だなんて言った?」
マンションがまるで畑の大根を引っこ抜くように地面から抜き出され、宙に浮いた。
「な、なるほど! 君の周りに毒が一切無いのも、空気を操って毒が入ってこないようにしていたのか! 固体だけでなく気体すらも操るだなんて、君の権能、間違いなく一級!」
カツヤが左手の拳を握りしめると、マンションが粉々になって無数のガレキと化す。
「ここで終いだ」
左腕を勢いよく振り下ろすと、ガレキのあられがナオキを襲った。
「フハハハハハ! 素晴らしい! だがモーションが大きすぎる! これならかわされてしま――」
しかし、ここでナオキは異変に気付く。体が岩の如く、全く動かない。
「(馬鹿な⁉ 念力系の権能は人間や権能によって生み出された物質はコントロール下に置けないはず⁉)」
一瞬慌てるナオキだが、すぐに動けなくなった理由を察した。
「そうか! 俺の身体ではなく、衣服だけをコントロール下に置いて動けなくしているのか! このような莫大な質量を操りつつ、衣服のみを操る精密性! 凄まじいな! まるで、亡くなられた王子の権能を見ている気分だ!」
絶体絶命のピンチに、ナオキはニヤリと笑う。
「受けてたとう! 少年! 来い!」
ナオキはすぐに大量の蔦を防御に回す。蔦は一瞬、ガレキを防御し持ちこたえるも、物量に負けてすぐに力を失い、押しつぶされる。
――ガレキの下で、人体のすり潰れる音がかすかに鳴った。
「知らねぇよ、そんな、死んじまった王子のことなんざ」
カツヤは積み重ねられたガレキに、ボソッと心の内に湧き出た言葉を吐き捨てた。
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