その8
第七王国ミヤギ州ナトリ市の王国軍支配地域では、ナトリ基地を中心に多くの兵士が哨戒を行っていた。激しい戦闘はあったものの、かろうじて一軒家やファミリータイプのマンションは形を保っている。
「しかしまぁ、第七王国で革命なんて起きるとはなぁ」
兵士の一人が上官の目を盗んで同期の兵士に話しかける。
「第二王国の二の舞になるとはな、全く。だが革命軍の奴らによると、国王様が王国民を強化の儀で忠誠心の高い奴隷にしてたってんだろ」
男はふっと鼻で笑う。
「そんなのあいつらが自分たちを正当化するために造った嘘に決まってんだろ。あの立派な王様がそんなことするわけないのに、バカバカしい」
「で、でもよ、確かに俺らの同期で強化の儀を受けた奴らも、やたら忠誠心が高くて目がイってたじゃなねぇか」
「お前なぁ、そんなもん――、んぁ? 何だこりゃ、……こけし?」
男が話を止め、前方に注意を向ける。大小さまざまな大量のこけしが音も無く突然出現する光景に、思わず息をのむ。
――直後、大量のこけしが一斉に爆発した。
「ア、アァァァ!!!」
爆発に巻き込まれた兵士たちが雄叫び上げる。
『全員、攻撃を開始せよ‼』
住宅の陰に隠れていた革命軍の一人――、宝田が王国兵の前に姿を現すと、他の
革命軍も一斉に飛び出した。
◆◇◆
宝田たち革命軍が攻撃を仕掛けている頃、ユウヤたちは革命軍支配地域の堺で待機していた。
宝田の権能による爆発音が聞こえた直後、カツヤが左耳につけた通信機に左手を当て、何やら確認を取る。
「宝田から予定通り攻撃を開始したとの報告を受けた。俺たちも行くぞ」
「分かりました。では皆さん、私の後ろについてきてください」
サキがそう言うと、隊列の先頭に立って走り出した。カツヤとユウヤ、それにアゲハとクロハもサキの後ろに付き従うような形で走り出した。
「これは……!」
走りながらユウヤは驚く。いつも自分が走る時よりも、身体が断然軽い。まるで自分自身が風になったようだった。
「サキの権能は風を操作する三級の権能だ。応用をすれば、空気抵抗を無くして移動速度を上げることが出来る」
「へぇ~すごい」
ユウヤが感嘆の声を上げると、サキは照れくさそうにしていた。
「いえいえ、高速移動系やテレポート系に比べれば大したことないですよ。残念なことにうちには複数人を運べる高等級のテレポート系権能使いがいないので、私が採用されただけでして……」
サキは謙遜しているが、この革命軍にいる権能使いの練度が全体的に高いことにユウヤは驚いていた。権能の等級という意味で優れているのではない。低い等級でも工夫を重ねて様々な使い方を編み出している点が、革命軍は非常に優れていた。
「いやいや、一朝一夕で出来るものだとは思えません。凄まじい努力をしたのが分かります。……でもその、なんで宝田さんは、こけしなんですか?」
ユウヤは宝田に権能を教えられた時のことを思い出す。するとカツヤが苦笑いしながら口を開いた。
「あ~、いや、アイツの権能は正確に言えば「木材を爆発させる権能」なんだが、どういうわけかこけしに謎の執着があるらしく、権能を使う触媒としてこけしばっか使ってるんだよなぁ。もちろん必要とあれば他の木材の、例えば紙とかも使うんだが……」
こけしといえばミヤギ州ナルコで作られる伝統工芸品だ。旧日本時代から続く数少ない工芸品で、お土産として買われることが多い。しかし、いくら権能を使うのに触媒が必要とは言え、爆弾物としてこけしを使うのは不思議でならなかった。
「まぁ、宝田には変なこだわりがあるがそれでも二級の権能だ。爆発という耳目を集めやすい権能だし、作戦はきちんと遂行する。それに指揮官としてもアイツは有能だ。俺たちは既に奴隷兵の名簿を手に入れているが、アイツは王国軍兵士の一人一人を奴隷兵か否かで判別して、奴隷兵は生け捕りにするよう尽力している。複雑な戦闘でそこまでできる奴は、アイツ以外にいねぇ」
「なるほど、ここまで人材に富んでいるなんて……」
正直なところ、ユウヤは革命軍がここまでしっかりとした組織だったとは思っていなかった。戦闘員一人一人の技量も高く、諜報や物資配給といった裏方までしっかりと機能しており、この革命を起こすまでに準備を念入りに行っていたことが伺える。
「僕と普段つるんでいる裏でカツヤがこんな組織を率いていたなんて……。それに、同じ学校に革命軍が三人もいたことにも驚きだよ。二人の権能の使い方も、本当にすごい」
そう言ってユウヤはアゲハとクロハを見る。アゲハとクロハの持つ権能は、気配を消せるものだった。おかげで近くに王国軍の兵士がいるものの、四人の存在には気が付いていない。
「とんでもありません。私たちの権能は正確に言うと気配を消せるものではなく、自分と自分の近くにいる任意の二名を周りから認識しづらくする、というものです。ちょっと横を通り過ぎたりしても気が付きませんが、よく凝視すればすぐに効果が切れて発見されてしまいます。ですので精々日常生活に役立つ四級に分類されます」
妹のクロハの説明通り、実際に王国軍の兵士たちの近くを通り過ぎても気が付きはしないが「ん? 今何か近くにいなかったか?」と反応する者もいた。そこまで便利な権能ではないのだろう。だが、それでも――
「いや、こういう隠密行動に関しては大きな効果を発揮しているよ。それに今回の作戦は基地に着くまでバレなければ良いんだし、僕がこの権能欲しいくらいだよ」
ユウヤは素直に感心していた。ユウヤ自身もかつては四級だったため、こういった環境と状況に合わせた権能の運用に、好感を持っていた。
「…………」
「…………」
ユウヤの言葉を聞いて、アゲハとクロハはお互いに不思議そうな顔をしていた。
「え~と、ごめん何か癇に障るようなこと言ってしまった?」
申し訳なさそうに尋ねるが、二人は首を振る。
「いえ、一級の方に自分たちの権能を褒められるってことが無かったので、少々面食らってしまったというか……」
「しかも私たちの権能が欲しいだなんて……」
ユウヤの言葉を未だに信じられないでいる二人だが、カツヤが耐えきれずに吹き出す。
「なっ、言ったとおりだろ? 成宮は一級だからって等級差別する奴じゃねぇって。それに成宮自身も元は四級だし、心配することじゃねぇんだよ」
カツヤのその反応は、まるで自分が褒められたかのようなものだった。
「そろそろ基地へ着きます。皆さん、準備を!」
先頭を走るサキの言葉に、ユウヤは気を引き締めた。
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